月に祈る 1 -3
「ほら?、水、飲んで下さ?い」
「…ん」
少し眉間に皺を寄せてはいたけれど、水は全部、飲み干してくれた。
「ふぅ…じゃあ、俺、帰りますね」
「…ね、弥勒」
「…はい」
「一昨日、修に会ったわ」
「え…、しゅう、さんに?」
思わず振り向いたけれど、亜紀さんは、俺に、背を向けていて。
「偶然、こっちに帰ってきていたらしいの。 少しだけ話しただけで、別れたけど」
「そう、ですか…」
「やっぱり、変わらないものなんてないんだわ」
「亜紀さん…」
「私は、永遠なんて、信じたりしない」
「……」
「また、明日ね、弥勒」
「…はい、また、明日」
「ただいま…って、誰もいない、か」
今日も、暗くて静まりかえった玄関で、一人ぽつりと呟く。
もちろん、出迎えてくれる、暖かい家庭は、そこにはない。
高校を卒業する前にして、家庭は、空中分解した。
今は、昔家族で住んでいた家に、俺、だけ。
一応、父親が一緒に住んでいるという形だけれど、ほとんど家にいない。
まぁ、俺も子どもじゃないんだし、寂しくは、ない。
大学を卒業するまでにお金を貯めて、卒業と共に、家は出るつもり。
真っ暗なリビングには入らず、二階の自分の部屋へと、階段を上る。
そのまま、ベットにダイブして、寝転がった。
「永遠なんて、信じないよ」
そう言った亜紀さんに、俺は何も言えなかった。