月に祈る 1 -2
朔と俺の、高校時代からの先輩である、亜紀さんは、綺麗なのに、どこか気取っていなくて、むしろ男っぽい人。
ズバズバと、はっきり物を言うし、裏表がなく、さっぱりとしていて、男にも女にも、好かれている。
まぁ、もちろん、そんな亜紀さんを、男たちは放っておくわけもなく。
しかし、当の本人は、それをバッサバッサと、切り捨てて。
…亜紀さんが歩く後には、散った男たちが転がっている。
ように見える。
「あーあっ!!弥勒、今日、飲みにいくわよ?!」
「ひえ?!亜紀さんの仰せのままに?」
―ドンッッッ!!!
すごい勢いで、テーブルにジョッキを叩きつけるもんだから、小皿の枝豆が一瞬、踊った。
ように、見えた。
「なーにが、好きよ!大して、私の事なんて知らないくせに、どんな風にして好きになったんだっつーの!」
「まーまー亜紀さん!ささっ!ググッと!」
今日は荒れに荒れて、もうビールジョッキ5杯目突入。
大体いつもこのくらいはざらなんだけれども、今日は何分、ペースが速い。
そっと、亜紀さんのジョッキを、すり替えて、烏龍茶に変更。
「ふんっ!」
ゴクゴクと、亜紀さんは烏龍茶を一気飲み…。
よしっ!っと、小さくガッツポーズをしてみたけれど。
飲み干したとたん、ゴンッと、鈍い音がして、ジョッキを持ったまま、亜紀さんはテーブルに突っ伏していた。
…あちゃー、こりゃ、自宅までおんぶコースに決定…。
「ほら、亜紀さ?ん、着きましたよ?」
「…んー」
そう言いながら、全く起きようとはしない、亜紀さん。
まぁ、もうそれも、慣れたもんで、合い鍵の隠し場所だって知っている。
鉢植えをそっと浮かせて、鍵を抜き取るのは、お手の物だ。
誰もいない真っ暗な部屋のベッドに、亜紀さんを寝かせて、台所にむかった。
―今日は激しかったけど、なにかあったのかな。
そんなことを考えながら、コップに水を汲み、亜紀さんの元へ戻って、揺さぶってみる。