『It's A Wonderful World 2 』-1
「お前らは知らないかもしれないけど、同じクラスの仁美明日香っていう子、なんだ、けど…」
喋りながら、どんどん声が小さくなっていく。
マサキとアキヒロの顔を見ることが出来なかった。
きっと僕は耳まで真っ赤しているのだろう。
マサキとアキヒロは彼女のことを知らないと思う。
1年の時も今も違うクラスだし、そんなに目立つ子ではないから。
アキヒロの好きな鮎川さんみたいな学園のアイドルではない。
ごく普通の子。
でも、僕はそんな仁美さんが―。
「シュン、正気か…」
「何が!?」
マサキが半分引いた顔をしていた。
まさか、その女はナイだろ…とか言うつもりなのか!?
そんな…。
もしもそんなことを言われたら、いくらマサキでも、僕は殴ってしまうかもしれない。
「2?Cの仁美さんって去年のミスコンチャンプだろ…」
「ほほう」
そう、彼女は目立つ子ではない。
彼女の魅力は僕だけが知っている…。
「って、マジカ!!!」
ミスコン?
は? ナニソレ?
僕は激しく驚愕していた。
「シュンって、面食いだよな」
アキヒロが呟く。
「ちげえよ!」
僕は反発した。
この僕が?
面食い?
はっ!? そんなわけがあろうか、いやない。
「じゃあ、聞くけど仁美さんのどこが好きなんだよ?」
どこってそりゃあ…。
しばし考える。
好きなとこなんていっぱいある。
いっぱいあるけど。
あえて一つ挙げるとしたら。
「顔、ですね…」
「うすっぺら!」
アキヒロごときにつっこまれた。
サイアクだ。
でも、そうなのか?
僕はうすっぺらいのだろうか。
仁美さんに対して抱いていたセンチメンタルでイノセントでピュアな気持ちはどこへいったのか。
「まあ、若いうちの恋愛なんてそんなもんだ」
「お前タメだろ」
達観した意見を述べようとするマサキを切り捨てる。
「ていうか、お前いつから仁美さん好きなの?」
「1年の初めの頃から…」
なんだか僕の肩身が狭い。
なにも悪いことはしていないはずなのに、なぜこうも弱気になるのか。
かといって強気にもなれない。
「そんな前からか。つうか、じゃあなんでミスコンのこと知らないんだ」
「ミスコンって秋の文化祭だよな? シュン、文化祭の時なにしてたんだよ?」
二人から質問をされて、僕は去年の文化祭を思い出す。
そう、たしか文化祭ごときではしゃぐなんてクールじゃないと思ってたんだ。
「タソガレてた。ここで」
「出たよ。引きこもり…」
「な!? HIKIKOMORI!?」
アキヒロという名のアホは何を言っているのか。
僕は高等遊民として、日々をアンニュイに過ごすことに魅力を感じているのであって、決してひっ、ひ、HIKIKOMORIなんかじゃない!
「アキヒロ、僕を怒らせてしまったことを地獄の底で後悔するんだな…」
「そんなに、気にしてたのか…」
信じられない。
ジーザスクライストだ。
アキヒロごときに、この僕がいじられているだと!?
これが恋の魔力ってやつか。