『It's A Wonderful World 2 』-4
なんでお前はそこまでバカなんだ―!?
そんな僕の悲痛な叫びもお構いなしに、アキヒロは仁美さんの元に走っていった。
「ヘイッ! カノジョ! はぁはぁ…」
バカは全力で走りすぎて息を切らしていた。
応援団をやめたツケがこんなところで回ってきたのか。
「ハアハア、ゼエゼエ…」
毛糸の目だし帽が熱いのと全力疾走したのが合わさって、アキヒロは滝のような汗を流し、気持ち悪く息を荒げる。
「な、なんですか…?」
仁美さんの隣を歩いていた女子がドン引きしていた。
もちろん仁美さんも美しい顔を引きつらせている。
「はぁはぁ、ちょ、ちょっとそこでお茶しなーい?」
息を切らしながら、バカが明後日の方向を指差しウィンクをしていた。
ていうか、ナンパしてどうする!?
「はっ!?」
アキヒロもそのことに気づいたらしい。
「な、なーんてな! そんなわけでイタダキマス!!!」
どんなわけだ!?
急にアキヒロはがばーっと両手を広げて仁美さんに襲い掛かろうとする。
あのバカっ!
作戦がどうのではなく、僕は身を乗り出していた。
僕の仁美さんに、あのバカが触れると思うだけで、僕は気が狂いそうになった。
今なら怒りのあまり、波動拳が打てるかもしれない。
そんな時。
「…島村くん、だよね? 応援部の」
バレていた。
仁美さんの隣歩いていた女子Bが、汗だく目だし帽男の正体に気づいたのだ。
ていうか、顔隠してもあのガタイと太い声でわかる。
その瞬間、アキヒロは謎の変態ではなく、やっぱり変態だった島村アキヒロになっていた。
「ち、ちがうヨ」
変態は、うわずりまくった声で残念すぎる事実を否定していた。
その時、小川のせせらぎのように耳障りの良い声が聞こえた。
「島村くん? 私達に何か用なの?」
仁美さんが、バカを見ながら白く細い首を傾げる。
バカと一緒にいても、なんと絵になる…。
ていうか、かかかかかか会話してる!?
アキヒロと仁美さんが会話してる!?
あの便所コオロギぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!
僕は、幼馴染に抑えきれない殺意を抱いた。
「え、いや、あの、その、はあはあ…」
か、会話だ。
そんなにアキヒロがキモく息を荒げても、これは会話だ。
言葉と言葉のキャッチボールだ…。
もうダメだ。
こんな光景を見せられるくらいなら、いっそこの目を潰してしまおう。
僕は震える手で目を覆った。
そんな時。
「あ、あの、ち、違うんデス。これには、ふ、深いワケが…」
「どんなワケ?」
「じじじ、じつわ、2?Cのきききききき」
僕のクラスを告げる声が聞こえて、僕は全力で駆け出していた。
「ききき?」
「き、桐山シュンっていう男に頼まれ――ってグボハアアアアア」
僕は瞬く間にアキヒロの元に駆け寄ると、その頬に熱く煮えたぎった拳をねじりこませた。
「このバカあああああああああ!!!」
僕は泣いていたかもしれない。
僕の魂の一撃を食らったバカは、あらゆる物理法則を無視して宙を舞い、地面に崩れ落ちた。