『六月の或る日に。1』-1
別に、泣いたりしない。
苦しんだりしない。
憎んだりしない。
さよなら
だって、
綺麗に言ってみせるよ。
◆六月の或る日に◆
それは、本当に唐突だった。夏樹と出逢った時と同じくらい、唐突だった。
『別れて、ほしいんだ。』
多分1ヶ月ぶりくらいに会った、GWの中日(なかび)。それほど気乗りしていたわけでもなかったけれど、まさかこんな話をされるとは夢にも思っていなかった。
休憩に、と入ったカフェでの事だった。もう5年以上も付き合っていると、話題という話題もなくて、久しぶりに会ったというのに、あたしたちの間には妙な沈黙だけがあった。
でもその沈黙は、唐突に、そんな言葉で破られた。
『え………?』
一体何を言われたのか、自分でもよく理解できなかった。悲しみよりも先にとにかく驚いて、言葉が出て来なかった。
ただ、周りの幸せそうな人たちの笑い声が、頭の中に妙に響いた。
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
「浮気されてたみたい、あたし。」
「え……、は?」
「しかも3ヶ月以上も。」
「はぁ!?」
「だから別れた。」
「なに!?」
会社帰りのサラリーマンでひしめく、金曜日の夜の居酒屋。明日は休みだからか、みんな羽目を外せると、ここぞとばかりに呑んでいる。
そんな中、あたしは久しぶりに会った親友の陽子に、1ヶ月ほど前の夏樹との出来事を話した。
陽子には今日までそのことを言っていなかったし、何より夏樹のこともよく知っているから、この反応は容易に想像できた。
……しっかし。