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『六月の或る日に。』
【悲恋 恋愛小説】

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『六月の或る日に。1』-4

『……幸せな気持ちに、なったんだ。アイツに、名前呼ばれて……、抱き締めて…、幸せでもう死んでもいいって思った。』


アイツ。

その言葉が、酷く憎かった。

燃えたぎるような、一瞬にして生まれた自分の中のドス黒い感情に、涙が引っ込んだ。

と同時に、耳を塞いでしまいたくなった。


『一時的なものか、と思ってたんだ。でも…、それでわかっちまって。………申し訳ないんだけど、お前のこととか、頭になかった。』


頭になかった。


その言葉が、どれだけあたしの心臓を抉っているか、この男に想像はついているんだろうか。


『彼女が、その日告白してくれたんだ。…それで、俺も。………ほんと、ごめん。』


ごめん。



今まで夏樹に言われた『ごめん』の中で、一番哀しい、『ごめん』だった。



*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*


「……さいっってい。」

そこまで話した後、陽子は吐き捨てるようにそう言った。あたしはそれに、苦笑を返すしかなかった。

だって、自分でも甘いと思うけど、まだどこか、夏樹を嫌いになりきれない自分がいる。

…というより。


「あたし、自分で思ってた以上に、夏樹のこと好きだったみたい。」

「春美……。」


出会ってから、約7年半。そのうち付き合った期間は、約5年半。

長かった。けど、あっという間だった。

忘れかけていたけど、その長くて短い時間は、あたしにとってすごく尊くて大切な時間だった。

絶対に、失いたくない時間だった。


「もっと、大切にすれば良かった。自分にとって、夏樹がどれだけ大切か、夏樹といる時間がどれだけ大切か、ちゃんと、わかってたら……。違ったのかな。」

こんな事を言っても、陽子を困らせるだけだとわかってたけど、止まらなかった。
不思議と、涙は出て来なかった。


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