『六月の或る日に。1』-2
「めっちゃ不細工だよ、その顔。」
耐えきれずに歪んだ口元に手をあてた。だってずっと口を開けたまま固まってるんだもん。綺麗な顔が台無し。
「いや、だって、いきなりすぎて…。つかそれいつの話?」
陽子は焦ったように顔を元に戻したけど、まだ狼狽していた。かなり驚いたみたいだ。
「んー…1ヶ月前とか?」
「1ヶ月前!?」
目の前にある焼き鳥を一本取って口に運んだ。陽子はまた驚いたのか目を見開いている。いちいちリアクションが大きいのが、なんか面白い。
「なんでその時すぐ言わないのよ!?」
しかしその直後、彼女は怒ったふうに声を荒げた。
「だって…、なんかまだ話す気になれなかった、ってゆうか……。大体、冷静に順序立てて話せる感じじゃなかったし。混乱したまま話されても困るでしょ?」
「別に、そんなの気にしないのに…。」
「あたしは気になるの。」
眉を下げる彼女に、あたしは努めて明るく返した。別に、同情を求めているわけじゃないから。ただ、聞いてほしいだけ。だからそんな顔しないでほしい。
「え、じゃあさ…、聞いていい?」
陽子は、梅酒のロックを一杯口に運ぶと、恐る恐ると言った表情であたしの顔を伺った。長い付き合いだっていうのに、こういう所、全然変わらない。
「うん、何でも聞いてよ。てか話したい気分だし。」
そんな彼女に、あたしは笑顔を返した。
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
頭の中の混乱が収まって、やっと冷静になり始めたら、今度は悲しみと寂しさが襲ってきた。
色々言葉を探したけれど、結局口をついて出たのは、こんなものだった。
『な、なんで…?』
本気で言っているのか、まだ半信半疑だった。夏樹は、どこか嘯く(うそぶく)癖があるから。だから今回のこの話も、もしかしたら一時的な感情かもしれない、そう思った。
『俺…さ。』
夏樹が小さな声で何か言った。でも周りのカップル達や女の子たちの集団の話し声がうるさくて、うまく聞き取れない。なぜかその事に、酷くいらいらした。