『六月の或る日に。1』-12
「鉄の女だなんて、言うのやめな。本当は、春美は女らしいし、人一倍、弱いんだから。」
『春美は、弱いんだから。』
ああ、夏樹にも、そんなことを言われたことがあった。
まだ泣かない、と決めたのに、涙が自然と溢れてくる。
『俺に頼れよ。じゃないと、何のために春美の側にいんのかわかんねえだろ。』
夏樹は、続けてそう言ったんだ。
「夏樹はきっと、春美を好きになったからこそ、その子を好きになったんだよ。春美を好きにならなかったら、その子を好きにはならなかった。」
なんて、皮肉。
あたしがいつからか、夏樹に甘えられなくなったから。頼らなくなったから。
だから夏樹は。
涙が、止まらない。
「春美だって同じだよ。」
陽子の言葉に、自然と耳を傾けた。
「春美にだって、夏樹を好きになったからこそ、好きになる人が現れるよ。夏樹との7年半がなかったら、出逢えなかった人が、きっといる。」
それは、真実かもわからない。まるで、夢のような言葉。
けどなぜか、涙が止まった。自然と、受け入れられた。
「次の恋をするために、夏樹にさよならを、言うんだよ。」
陽子の言葉が説得力を持って、胸にずしりと重みを持って響いた。
陽子の目を見て、ただ深く頷いた。
すると陽子は高らかに笑って、
「さ、明日からあたしと一緒に婚活すっか!」
と言った。
「ちょっとー、台無し!」
あたしは涙声でそう返した。そして、陽子に続くようにして、高らかに笑った。