『六月の或る日に。1』-10
『答えは、今度言うよ。』
今度、なんて。
あたしたちにはもうないのに。
気づいたらそう口にしていた。
夏樹は驚いたように、目を見開いた。
『……夏樹。あたしに、時間ちょうだい。あんたと……きっぱり別れるための、時間。』
だって、いきなりすぎた。
あたしは今日も、いつものマンネリコースで、楽しみもときめきもないけど、ただ安心できる、ほのぼのとした1日を夏樹と過ごせるんだと思ってた。
それが、衝撃的な告白のせいで、台無しになった。
あたしたちの未来が、一瞬にして消えた。
受け入れるには、いくらあたしだってキツすぎるよ。
『……そう…だな。わかった。』
夏樹も、あたしの思いを汲んでくれたのか頷いた。
『…夏樹、その時は、夏樹も答えて。』
あたしは今日初めて、穏やかな気持ちで夏樹の目を見た。
さよならを、言う時は。
『…素直になって。』
あたしも、そうするから。
『ーーー、ああ。』
夏樹の目が、一瞬だけ、泣きそうに見えた。
長く短い、時間の中で、あたしたちが失ったものは。
手に入れられなかったものは。
何だったんだろう。