想-white&black-C-6
「……どこへ行こうとしていたかなんて、考えてませんでした。ただ、やっぱりここにはいられないって思ったから」
それは本音だ。
ただここにいたくない、そう思ってとっさに逃げようとしたのだから。
落ち着いて考えれば、私に行くあてなどないことは分かりきったことだったのに。
「なぜ?」
私の答えを聞いた楓さんは表情を変えることもなく更に質問を重ねてくる。
理由なんかきっと分かっているくせにわざとそんな質問をしてきているのだ。
私はそんな楓さんに腹立たしさを覚え、睨み付けて大きな声をあげていた。
「なぜって、当たり前じゃないですか! あんなに酷いことされてここにいたいなんて思うわけないじゃない!」
今も体はあちこち痛み立っているのさえ辛い。
そんな弱みを見せたくないという意地が私を支えていた。
だが楓さんは私を見て呆れたように嘲笑を浮かべた。
「ならここを出てどうやって生活していくつもりだ。あの親戚連中のところを頼るのか? 間違いなく肩身の狭い思いをするだろうな。どこへ行っても煙たがられ、邪魔者扱いされるだろう。そんなお前が最終的にはどうなっているか見ものだな」
「……っ。そ、それでも身体を好き勝手されるよりは……」
「本当に?」
そう言われ言葉に詰まってしまった。
楓さんの言っていることは正しい。
どこに行っても私に居場所なんかきっとない。
あの人達の前で啖呵を切った手前もあるが、両親を蔑むような人達の世話になどなりたくなかった。
もし例えば友人の所にいられたとしても、ずっとという訳にはいかない。
迷惑はかけたくない。
私が何も言い返せないでいると、楓さんはたたみかけるように耳元で囁く。
「それにお前の両親の居場所も知りたくはないのか?」
「―――っ!! それ、は……」
きっとこの男のことだから、両親の眠っている場所を知っている人には既に手を回しているだろう。
全てを握っているのは、楓さんだけ。
心が揺らぎ始めたのを見透かしたのか、楓さんは私の髪を一筋すくうと口づけた。