想-white&black-C-5
「悪かったよ、中学生なんて言って。君、名前は?」
名前を聞かれ、答えるべきか悩んだが無視するわけにもいかないと思い口を開く。
「間宮花音……です」
「花音ね。俺は結城麻斗、よろしくね」
結城さんはそう言ってにっこり笑うと右手を差し出してきた。
「は、はい……、きゃっ」
反射的に右手を差し出すと、その手をとられ甲に軽く口付けられた。
突然降ってきた唇の柔らかな感触に驚いた私は、勢いよく手を麻斗と名乗る男から離した。
「麻斗!!」
隣で楓さんが麻斗さんに怒鳴ると胸ぐらに掴みかかる。
「うるせえなぁ、楓は。俺のことは麻斗って呼べよ。じゃあまたな、花音」
楓さんを軽くあしらい掴まれた手をどかすと、ウィンクを飛ばして手を振りながら部屋を出ていった。
「ったく、あいつ一体何しに来たんだか……」
楓さんは呆れたように頭を抱えながら溜め息をついている。
普段は冷静で感情を表に出さないような楓さんがあの人の前ではペースを乱されていて、それが何だか妙に人間くさく見えた。
「あの……」
「何だ」
話しかけると横目でジロリと睨まれてしまった。
やはり結構不機嫌極まりなさそうだ。
「あの、さっきの麻斗さんって……?」
「あんなやつのことなどお前は知らなくていい。ただの顔見知りだ」
「そう……なんですか」
顔見知りというよりはもっと仲は深そうに見えたが、あえてそれ以上聞くことはやめておいた。
「それでお前は一体どこに行こうとしてたのか教えてもらおうか?」
「えっ」
不意に問いかけられた言葉に心臓がドクンと鳴る。
私を見下ろしてくるヘイゼルの双眸は、全てを見透かしているのだということを物語っていた。
それまでの空気が一変する。
「え? じゃないだろう。俺から逃げてどこへ行くつもりだったのかと聞いている」
バレている。
私がさっきここから逃げだそうとしていたことが。
この状況でごまかしは多分通用しないだろう。
認めればきっとまた酷い目にあうだろうが、嘘をつけばそれより更に事態は悪くなる。
どうしようか迷ったが意を決すると、とりあえず自分を落ち着かせるように呼吸を整えてから口を開いた。