主役不在-6
6.【理外】
「クククッ……」
不敵な笑みを浮かべつつ、赤木は三巡目の牌を切った。
その牌は、三筒。村岡にはなんのヒントにもならない牌だ。
つい先程までの喜びに満ちた表情はどこへ消えたのか、苦悶をありありと浮かべながら、村岡は牌を睨み付けている。
(どれだ……ッ! どれが通るざんすか……ッ!?)
全く想定外の状況にいきなり落とされた格好だ。当然、冷静な対処などできるわけがない。
だがそれでも、たとえイカサマに頼ったものだとしても、村岡は曲がりなりにも十七歩に関しては経験豊富である。ぎりぎりの状況で村岡は、一つの光明を見出だした。
(これは……通るんじゃないざんすかッ!?)
村岡が選んだそれは、七索だった。
もし仮に、赤木の待ちが七索だとしたら、赤木の手牌は
7二二二222666???
となり、この場合待ち牌は、五索、七索、八索の三面張となる。けれど、五索と八索ではあがれないのだ。なぜなら、三暗刻が消えてしまうから。
だが、かといって七索が百パーセント安全とは言えない。
裏をかいて、先に五索や八索が零れるリスクも無視した理外の待ちの可能性が、0ではない。
0ではないのだ。特に、相手が赤木しげるならば。
(頼む……ッ! 通すざんすよ……ッ!)
目を瞑り、祈る想いで七索を切る。その牌を一瞥するなり、赤木は視線を村岡へ向けた。
「どうしたよ? 随分とおたおたしてるじゃねえか。馴れてるんだろ、お前は。このゲームに」
からかうような口調で言うが、村岡にはそれに腹を立てる余裕もなかった。とにかく、通ったのか否か、一刻も早く知りたいのはそれである。
「安心しな。通しだ」
言うが早いか、村岡とは対照的にスパッと赤木は牌を捨てる。
三筒。対子落としだ。またも村岡にヒントを与えない牌である。
(あ……安牌ッ! 安牌を切るざんすよッ!)
村岡の捨て牌候補には、七索があと二枚あった。それがなくなるまでに赤木が村岡の安全牌を切らなければ、村岡はまた切らざるをえなくなる。
当たりうる牌を。
7.【思考】
四巡目。村岡は打七索。
それを見て赤木が五巡目に切ったのは、すでに安全牌だと判明している、その上村岡の捨て牌候補にない八索だった。
村岡は最後の七索を手離して祈る。
(切るざんす……ッ! 安牌ッ!)
だが、村岡の心からの願いは通じなかった。
六巡目。赤木が切ったのは八索。またもノーヒントの対子落とし。
そして、また村岡は考えなければならなくなった。ほんの僅かでも、通る確率の高い牌を。
(これ……? これ……? それとも、これざんすか……?)
村岡がまずつかんだのは、三索であった。先程七索を切った理屈で言えば、三索と四索は通せるはずである。
(!)
だが村岡は、その一打を思い切るその一歩手前で、あることに気がついて手を止めた。
赤木が蒔いたある種に気づいたのである。
(赤木の一巡目、打三萬……ッ! なぜ、あんなところを切る? あんな、こちらのヒントにしかならないところを……ッ!)
そう。一巡目の三萬、これで赤木は演出したのだ。暗刻の牌の周りの危うさを。