主役不在-4
(で、で、できてる……ッ!)
村岡の手牌:
一九??19東南西北白發中
国士無双十三面待ち。麻雀における全ての聴牌で、最も点が高く、最も待ち牌の種類が多い聴牌形だ。
(きッ、きッ、きたッ! きたッ!)
目をやると、赤木も手牌を完成させているようだった。
(赤木は、どこで待ってるざんすかッ!? それと、ヤオ九牌はいくつあるざんすッ!?)
もうジェスチャーをさりげなく装うことも忘れて、前田に聞く。前田からの返事はこうだった。
(赤木の手牌は……)
赤木の手牌:
八二二二222666???
(三暗刻、立直、断ヤオ九、ドラ2の跳満。待ちは八萬単騎です!)※ドラは八萬。
そして、赤木の捨て牌候補に目を移した前田は、村岡と同じく幸運に目を見開いた。
(ヤオ九牌……六枚ッ! 一筒が一枚、東が一枚、西が一枚、北が一枚、中が二枚……ッ! 六枚ありますッ!)
六枚。この枚数は、この十七歩ではかなりの意味を持っていた。
始めに入る三十四牌のうち、手牌に十三枚、捨て牌に十七枚、最後に残るのが四枚である。捨て牌候補に当たり牌が五枚以上ということは、つまり最後には必ずふってしまうということになるのだ。
(き……きたアァーッ!)
4.【危機】
※最終ページの村岡の配牌を参照のこと
「そ、そこまでです!」
砂時計の砂の最後の一粒まで落ちきるのを見て、村岡の部下が告げた。
赤木は手牌の左端の牌を、盲牌でもしているかのようにいじりながら、フと村岡を目だけで見た。
「リーチ」
切り番は親の赤木から。赤木は、やはりというか、一打目が九割ヤオ九牌になるこの十七歩で、三萬を切った。
(クククッ! やっぱりふらないざんすか。……でも、無駄ざんすよ……ッ!)
「リーチ!」
村岡の一打目は、赤木に合わせた三萬。もはや勝つことが決まった勝負で、村岡は早くも、内心勝利の喜びに身を震わせていた。
(なにしろ、赤木の手牌には当たり牌が六枚ッ! たっぷりあるざんすッ!)
村岡の思いは、ある意味間違っていた。
普通の麻雀で配牌に入るヤオ九牌の割合を考えれば、三十四牌の中にヤオ九牌が六枚というのは明らかに少ない。たっぷりどころか、少なすぎるのである。
これも神域、赤木の強運か。しかし、その強運も、あと一歩足りなかった。
捨て牌候補に六枚、ヤオ九牌がある。それは、事実なのだ。
赤木は相変わらず左端の牌をいじりながら、二打目も三萬を切った。
村岡は、もはやなにを切ろうが大した違いはない。捨て牌の中から適当に、指運に任せて牌を掴む。
そしてそれを切ろうとした――そのとき。
(ッ!)
ある予感がして、村岡は辛うじて踏み止まった。
(……待てよ)
ある違和感が村岡の頭をよぎる。そう、なにかがおかしい、という感覚。そしてその正体は、すぐに解った。
(……なぜ、ドラで待つ?)
赤木の待ちは、ドラの単騎待ち。前田から待ち牌を知らされている村岡は当然ふらないが、もし五分の勝負でも、余程のことがない限りふらない牌だ。
それでも、例えば七対子、立直、ドラ2のようなあがりしかできない場合など、ドラ単騎でいかなければならないことはある。
しかし今回の赤木はそうではない。ドラを絡めずとも、三暗刻、立直、断ヤオ九で満貫はクリアするのだ。それなのに、なぜわざわざ薄いドラで待つ?
答えは一つしかない。
(こッ、この男……ッ!)
そこで初めて、村岡は己の危機に気がついた。
左端の牌を弄びながら飄々ととぼける赤木が、水面下に潜ませていた策に。