『It's A Wonderful World 1 』-5
パサリ。
そんな時、ひどく乾いた音が聞こえた。
「うん? なんだこれ」
マサキがアキヒロの懐から落ちた物体を拾い上げる。
それは輪になった布だった。
大きな文字で「生徒会」と書いてある。
「アキヒロサン! コレ、ドシタノヨ?」
僕は意味がわからなくて自分が日本人であることを忘れていた。
「それに触るんじゃねえええええええ!!!」
かっと目を見開いたシマムラサンが、信じられないスピードで輪になった布を奪う。
布を奪われ呆然としているマサキが口を開く。
「それ、腕章だよな?」
腕章を胸に抱きしめるように隠したアキヒロの肩が震える。
まさか。
こいつ、まさか。
やっちゃったのか。
「アキヒロ」
僕は恐ろしい推理を胸に抱きながら、友人の名を呼んだ。
「な、なにかね」
ぎぎぎっと錆びた鉄のような音を立ててアキヒロが僕の方を向く。
「生徒会、入っちゃった?」
僕はあえてど真ん中で勝負した。
「そ、そんな、ババババババババカなことがあるもんか」
バカはお前だ。
「怒らないから、正直に言え」
マサキが妙に優しい声で、諭すように言う。
「……」
アキヒロは全身から脂汗を流していた。
せっかくのフレグランスを洗い流して、凄まじい汗臭さを漂わせる、そんな脂汗だった。 たっぷり三分間がたって。
アキヒロはゆっくり口を開いた。
「入りました…」
「応援部は?」
僕は詰問するように言う。
「辞めました…」
いつのまにか日は沈み、辺りは薄闇に包まれていた。
誰も何も喋れなかった。
ただ誰かの漏らす嗚咽が聞こえる。
「情けねえ…」
マサキが泣きながら言った。
僕も泣きたい気分になった。
「見損なったぞ。アキヒロ」
僕は心底残念そうに言った。
事実、残念だった。
でも、心のどこかでアキヒロの残念さにほっとしている自分がいた。
「お前、男らしくなりたくて応援団に入ったんじゃなかったのか!?」
僕の説教にアキヒロは何も答えない。
「硬派だった自分を思い出せ! 僕の知っているアキヒロって男は、好きな女ができたくらいで応援団を辞めて生徒会に入ってしまうようなクソ野郎ではなかったはずだ!」
アキヒロはなおも押し黙っている。
「そんなんでいいのか、このフンコロガシが! いや、今のままじゃお前はただの便所コオロギだ! いや、むしろダボだ! クズだ! このファッ○ン野郎! マザー○ッカー! ○○○の△△××◇◎!!!」
僕の説教はただの悪口になっていた。
その時。
「ナ」
ずっと黙って聞いていたアキヒロは正座さえしていた。
そんなアキヒロが鳴いたのだ。
ナ、と。
「ナんか文句あるのかあああああああ!!!」
突然の叫び。
急に立ち上がったアキヒロが叫んだ。
ついでにベソを書いていた。