……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-12
「しょうがないからあ……あたしが色々お勉強させてあげるね」
そういうと理恵は彼の膝に正面から跨り、見下ろす位置を取る。
「理恵さん? 何を?」
「さっきから理恵さん理恵さんって、いつからそんなに仲良くなったの?」
「え?」
そういえば先ほどから無意識の内に理恵と呼び捨てにしていた。
ここ数週間、放課後に理恵の補習に付き合っていた紀夫は、彼女に対する神経質な気遣いが薄れていくのを知っていた。それでも「伊丹さん」「マネージャー君」でしかなく、その原因を作った里美に対しても「香山さん」「君」もしくは「島本」でしかないが……。
思い当たる理由は指先のスキンシップくらい。文字通り小指程度のふれあいでいい気になる自分を童貞らしいと笑いつつ、それ以上に膝にかかる重さを意識する自分がいる。
「お勉強? なんの?」
「お・ん・な・の・こ……うふふ!」
最初に教えてもらったのはふっくらとした唇の感触だった。
唇が重なっただけとはいえ、初めての経験に興奮と幸福感、それに若干の不安を覚えていた。
「理恵……さん?」
「何? やっぱりキスもしたことなかったんでしょ?」
「うん……けど」
――どうして?
いつも勉強を教えている。けれどそれは他の同級生にも同じこと。補習ごとに彼女に付き添うのは優越かもしれないが、キスをされるほどだろうか? 正直なところ勉強で苦労したことの無い彼には、ティーチングアシストの対価にキスでは過払いとすら思えた。
唇から離れた厚みのある下唇と、それを隠そうと前に出る上唇。その重なり方が得意そうに笑っているようにも見え、唾液で滲んだリップのマーブリング模様が卑猥だった。
「むー、……今の全然ヘタクソ」
がっかりしたという様子で唇を離す理恵の眉はハをさかさまにしたようにとんがっていた。
「しょうがないじゃん。初めてなんだから……」
プライドを傷つける一言に目を逸らす紀夫。しかし、理恵はそれを許さず顎をくいと剥きなおさせ、再び唇を近づける。
「え、だって……ん、んぅ……」
唇の表面がムズムズする。何かが当たり、無理に開こうとしているのだ。
それが舌だとわかったとき、紀夫は自らのそれを意識せずに突き出し、彼女の出す追試に臨んでいた。
「ん、んちゅ、はちゅ……はぅ……むぅ……んっ!」
舌先を通して伝わる幸福感と悠然と見下ろす目付きに堪えられず目を瞑る紀夫。どことなく負けを認めるようで悔しいが、経験のある彼女にもたれるのも悪くないと思い始める。
「んふ……んぅーんぅ……うふふぅ」
唇が離れたあともしばらくの間目を開けられなかった。哂われるのが怖かったのと、粘膜のやり取りを反芻したかったから。
「んー、まあまあ合格かな。目を閉じたの、あれ雰囲気あっていいね。ちょっぴりエッチだったよ」
「そう……」
羞恥心からです。などと言えず、ただ黙りこくる彼に、理恵は膝でずりずりと忍び寄る。
「ん、ねえ、もう追試は終りでしょ? あんまりからかわないでよ……」
「からかってると思う?」
「んーん、わかんない。けど理恵さん、どうする気?」
「さっきエッチしそこねたからぁ……紀夫だっけ? 君が代わりに満足させてよ」
「そんな、だって……僕は理恵さんが心配だったから……」
「何をそんなに心配してるの? 理恵は平気だよ?」
「そうじゃなくって、これ内緒にしてもらいたいんだけど、陸上部の男子がさ、その、よくないことをしてるから、だから、女子部員を……」
「守るの?」
「……うん」
女子を守るという、お題目なら立派な気恥ずかしい気構え。