……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-11
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近くの自販機でジュースを二本買う。
彼女はスポーツドリンクで自分はコーヒー。ただしミルクと砂糖入りの苦くないもの。
何故彼がつかいっぱしりをしているかというと、
――ねえ、あたし喉が渇いたの。ジュースおごってよ。
公園を通りかかった時、理恵は急に我侭を言い出したせいだ。
最近は当たり前になりつつある理恵との関係に、紀夫はそれほど抵抗もない。というより、どこか不安定な素振りを見せる彼女の気を紛らわせるためにも素直に従うことにした。
紀夫はペットボトル片手にベンチを目指す。
そこそこ広い公園で昼間は小中学生で溢れかえっており、日が落ちると高校生のカップルがちらほら湧いてくる。ただ、一組でもいると気を使ってか後発の男女が
やってくることが無く、不思議な秩序があった。
今日は紀夫と理恵がいる。そのせいか誰も来なかった。もっとも紀夫はそんな裏ルールなど知らないわけだが。
「お待たせ……って、伊丹さん?」
ベンチに戻るも誰もいない。不安が再びやってくる。
周囲を見渡すも公園は無駄に広く、鬱蒼とした林がすぐそばの小山と繋がっており、人一人かどわかすことも容易なこと。
「伊丹さん! 伊丹さん!?」
驚き叫ぶ紀夫はペットボトルも投げ捨て、走り出していた。
どこへというわけでもなく、当ても無い。けれどじっとしてもいられない。
「理恵、理恵ー!」
まるで映画のワンシーン、恋人と引き裂かれた主人公を気取る彼だが、背後から追走する笑い声にしがみ付かれ、現実に戻される。
「うふふ……なに慌ててるの?」
「あ、理恵さん……。んもう、どこ行ってたのさ! 心配したんだよ」
「あはは、怯えちゃって可愛い。マネージャー君、そんなに怖かった?」
木陰にでも隠れていたのだろうか、理恵の制服には小枝と葉っぱがついており、けらけら笑うたびにそれが舞い落ちていた。
「理恵さん。冗談じゃないよ。もう、心配したんだよ。本気で……」
「うふふ、ごめーん」
どこか温度差があるものの、どっと疲れがでた紀夫は落としてしまったペットボトルを広い、ベンチに腰を下ろす。
「どうしてそんなに焦ってるの?」
「理恵さんが危ない目に遭ったら困るから」
「ふーん、危ない目って?」
「それはその……」
――男子部員からレイプされてしまうかもしれないから。
未遂の段階であり、大事にすべきではないと口ごもる紀夫。下手に心配させてもよくないと言い訳を考えるが、何も浮かんでこない。
「あたしがエッチなことされちゃうかもしれないからでしょ?」
「え? 理恵さん、知ってたの?」
「うふふ。知ってたもなにもあたしは全然平気だもん。さっきだってマネージャー君が来なくたってへっちゃらだしぃ、久しぶりにエッチできるかもって期待してくらいだもん」
「そうなの?」
隣に座ってスポーツドリンクをぐびぐびと呷る理恵は、確かに普段と変わらぬ様子。先ほど震えていたのは気のせいなのだろうか?
「エッチってさ、すごいキモチイイんだよ。皆そういってるしさ。もちろん好きな人とするのが一番だろうけど、でも、女の子だってしたいときってのがあるのよねぇ……」
夜空を見上げながらあたかも「せっかくのチャンスをふいにされた」と言う理恵に、煽られる耐性の低い紀夫は反感を覚えてしまう。
「ねえ、マネージャー君って童貞でしょ? うふふ、隠さなくたってわかるよ。だってさ、あたしが近づくと変に意識するでしょ? なんか肘とかぶつかっちゃわるいとか考えてるんでしょ? でしょ?」
「それはまあ……」
「それにさ、お手て。ちょっと繋いだだけでも震えちゃってさ、情け無いの。そんなんじゃ彼女できないよ?」
クスクスと含み笑いをする彼女だが、紀夫は内心あまり怒りを持てずにいた。なぜなら、先ほど震えていたのは彼女の方だから。