……タイッ!? 第一話「守ってあげタイッ!?」-10
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「ねえ、理恵さん。いるんでしょ? お願いだから出てきてよ……」
ドアで隔たれた向こう側では一体なにが起こっているのか? 気が気でない紀夫は半ば狂乱しながらドアを叩いていた。
「待っててよ。もう、マネージャー君ったらせっかちさん!」
中から聞こえてきたのは理恵の声だった。紀夫はひんやりした壁にもたれ、ふうと安堵の息をつく。
疑惑の段階とはいえ、心配にしすぎもない。理恵を探す彼は部室棟を一通り調べた後、倉庫や体育館裏を調べていた。しかし、その影も見つからなかったので、続いて校舎を調べることにした。
その途中、視聴覚室の電気が点滅したことと、カーテンが閉まっていたことから不審感を持ち、直接向ったのだった。
その結果が理恵の間延びした声。だが、おそらくは……。
「お待たせ! うふふ、どうしたの? そんなにあわてちゃって……」
笑顔の彼女だが、チャームポイントのポニーテールが解けている。どことなくブラウスに皺が目立ち、彼の心配を裏付けていた。
「大丈夫だった?」
「なにが?」
何事も無かったように振舞う彼女をよそに紀夫は教室の中を調べる。
カーテンは相変わらず閉まっており、電気もついていない。よく見ると準備室へのドアが開いており、違和感が漂っていた。
「ちょっと、どこいくの?」
「え? あ、いや、なんでも……」
準備室を調べようとした紀夫を理恵の手が止める。
柔らかく温かい手だが、気持ち揺れていた気がする。
「ねえ、送って行ってくれるんでしょ? ほら、早く帰ろう? ねぇ……」
「うん、そうだね……」
まだ少し疑念が残るものの、それは今解決すべきでないと思い、その手を握り返すことにした。
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通学はいつも自転車の紀夫だが、理恵は基礎体力造りのために徒歩らしい。
紀夫は自転車のカゴに二人分の鞄を入れて左手で押していた。それというのも右手がさっきから柔らかな手に拘束されているためだ。
帰り道、手を繋いで帰るなどと小学生以来のこと。いくら日が落ちているとはいえ、気恥ずかしさを覚えてしまう。
しばらく歩いた後、十字路に差し掛かったところで理恵が引っ張る。
「あ、あたしんちこっちだから」
「そう、それじゃあ……」
自転車を身体で支え、彼女の鞄を取り出して手渡す。
もう脅威は無い。視聴覚室で何をしていたのかは落ち着いたときに聞けばいい。もし隠すようなら自分は無粋なことをしただけ。それこそ彼氏と一緒だったのかもしれないのだし……。
そんな言い訳をしつつ、どこかもったいない気持ちがあったりもする。
「何?」
それがなんなのか、右手を引っ張る手が思考を中断させた。
「送ってくれるんでしょ?」
「だって、家そっちでしょ?」
自分の家はこの道をまっすぐいったところ。もちろん右に回っても遠回りになる程度だが、それ以上は……?
「んもう、こっちがあたしの家だから曲がってって言わなきゃダメなの?」
「あ、うん、ゴメン」
下心の未熟な彼の態度に腹を立てたのか、理恵は握っていた手を離し、先に行ってしまう。
「待ってよ」
それでも一抹の寂寥感が薄れたのは事実だった。