ヴァンジュール〜主役不在篇〜-4
「知り合いの脚本家に頼んでおこう。皆が主役を演じれるような話を……。それにはキミにも出てもらうからね?」
純白のドレスを着た女性の心に響いたのかわからない。理解してもらえたのかもわからない。
「主役を演じれるの?」
「そうだよ」
話を理解はしていなかったらしい。彼女の心に響いたのは、主役を演じられる。その言葉だけ。しかし、どんな言葉でも彼女の心に響いてさえいればよかった。
「それまで、演技の練習をしててね」
青葉蓮は出来るだけ優しく言った。彼女からはうん。と嬉しそうな声が聞けた。それで満足だった。そして、漆黒の手帳に――五芒星を描いた同じページに――六芒星を描き、彼女は微笑みながら六芒星の中心に吸い込まれていった。吸い込み終わると、六芒星は回転し、光り、そのページごと消滅した。またこっちの――人間の世界へ戻ってきたのだ。
「これでオッケーだ」
二人は舞台からおり、静かに劇場を去った。だが、影沼楓は気付いていなかった。青葉蓮が苦しそうな表情を浮かべていたことに……。
※※※
数日後、もう起こらない。という言葉を受けて、柳谷稜子は渋々だが主役を演じていた。満席の客席の前で……。
客席の間の通路から舞台を見上げる男がいた。しかし、男のことを注意するような人はいない。それもそのはず。彼は幽霊たちの世界にいるだから。
「はっはっはっ。青葉蓮! だから、貴様は甘いのだ。さあ、オレからのプレゼントを受け取れ!」
複数の幽霊たちが、セットを移動しようとする柳谷稜子の足を引っ張り、彼女は舞台に叩きつけられた。
「はっはっはっ。青葉蓮! 苦悩するがいい。迷えるがいい。お前が死ぬまで、復讐は終わらんぞ! はっはっはっ」
※※※
「先生! 大変です!」
いつも冷静沈着の楓君が慌てていた。こりゃ、雪でもふるかな。
「どうしたの? 依頼人が五人くらい一斉に来た?」
「違います! 稜子さんがあの劇場で怪我したって!」
「なんで……?」
おかしい。たしかに成仏させたはずだ。あの時とは違う。なんでだ? ま、まさか……! たちまち理解した。あいつか! 僕達は、あいつの掌の中に居たのか!
近くにあった机を思い切り叩いた。ベコッ、と机は大きな音をたてて、へこんだ。しかし、そんなもの関係ない。
「くそっ。あいつの仕業かッ!」
あいつの全てを知っている。知っているからこそ目的も、容易に想像出来る。僕とあいつの共通項があいつの目的になってるからだ。あいつの目的。それは僕に対する『復讐』。
※※※
この事件をきっかけにして、青葉蓮、影沼楓、そして、青葉蓮があいつと呼ぶ男。彼らの『運命』という歯車は大きく動き始めた……。
To Be continued
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