ヴァンジュール〜主役不在篇〜-2
「はい、青葉蓮探偵事務所です!」
「もしもし、青葉君はいるかな?」
低めのハスキーボイスの人物――男が言った。青葉蓮を知ってるなんて珍しい。
「今、出かけていますが……。青葉に何かご用でしょうか?」
「まあ、依頼? っていう感じかな。青葉君はいつ頃帰ってくるかな?」
青葉蓮の様子を見ると、椅子から何度か落ちそうになるくらい熟睡している。これは一、二時間では起きそうにない。
「夕方頃までは帰ってこなさそうです……」
「そうか。だったら、明日のお昼頃でも劇場『疾風』に来てくれるように言ってくれないかな?」
「わかりました。お名前は……?」
「おっと、ごめん。名乗ってなかったね。僕は松本龍真。青葉君は僕のこと知ってるはずだから、よろしくね!」
受話器を置くと思わずガッツポーズをした。久しぶりのきちんとした仕事だからだ。しかし、恥ずかしくなってガッツポーズをすぐにやめた。こんなとこを青葉蓮に見られたら、笑われるに違いない。まだ寝ていることを確認すると、別の椅子に座り、昂揚した気分を隠しつつ、報告書の作成に取り掛かった。
※※※
「ども、青葉蓮です。よろしく」
限りなくテンションの低い声で劇団夕暮れの面々に挨拶した。特別不機嫌というわけではないらしい。助手の影沼楓から理由を聞くに、それは凄まじくくだらない理由だった。
「寝すぎて、身体が痛いらしいんです」
それを聞いたとき、思わずため息が漏れた。相変わらずだな、というのと、呆れたの両方の意味合いで……。
大丈夫なの? こいつ。そう言いたげな顔で、柳谷稜子はこっちをみた。とりあえず、大丈夫。とは言ったものの、不安感は拭えずにいた。
「んで、なんか不思議なことでも起こったスか?」
これでもとてもやる気らしい。まあ、以前と比べるとかなり丸くなってはいる。
「この劇場では、必ず主役の人が怪我をしたり、亡くなったりするらしいんだ」
大まかに説明すると、ふーんとあまり興味なさげな返事をした。さらに質問を返してくる。
「昔とかにこの劇場で、死んだ人いる?」
いないと思う、と劇団夕暮れの人たちに確認すると、皆頷いた。それを青葉君は確認すると、笑った。
「そうか、そうか」
何度か頷いて、散歩すると突然言い出して、出ていった。なんなんだ……。
「すいません。いつもあの調子で……」
呆れた調子でまた言った。