想いの行方V-6
「それやるよ。俺吸わねーし」
「…………おぉ」
俺は学ランの内ポケットにライターを入れた。
英士は鞄をどさっと地面に置いた。
明けっ放しの鞄の中からは、昨日心が見ていたDVDが顔を覗かせている。
「英士」
「何だよ?」
「もうダセーの嫌だし、単刀直入に聞くけど……」
「どーぞ」
「………心の事好きだろ?」
英士は一息ついて、少し笑った。
また風が強く吹きつける。
「好きだったけど…?」
真っすぐ向けられる英士の視線から俺は思わず逸らしてしまった。
煙草の灰が風でハラハラと舞う。
英士は屋上のフェンスを背に座った。
「ばーか、"だった"だよ。過去形だ」
俺はようやく視線を英士の方へ戻した。
少し離れて、俺も同じように座る。
「じゃぁ何で俺に譲ったんだよ?」
「そんなんじゃねーよ。単純に矢田と西野ならいいなって思った……俺がそう望んだの」
「……何だそれ」
「本気で西野が欲しかったら、とっくに言ってる」
「……………」
風は少し穏やかに吹いている。
俺は煙草をコンクリートにこすりつけた。
「何か勝った気がしねーんだよ!心に白黒はっきり決めてもらおーぜ」
そう言いながら立ち上がる俺をよそに、英士は呑気に座りっぱなしだ。
おまけに何か笑ってる。