想いの行方V-4
「矢田っ!」
そんな俺に気づいて名前を呼んだのは英士。
俺はいつもと何ら変わりない笑顔を作って歩き出した。
作り笑顔なんてしてる自分に腹が立つ。
「元気か?」
英士は本当にめざとい。
や、よく言えば気が利くんだけど…。
「DVD結構おもしろかったよ」
"心が英士から借りたやつ"なんて言わなくても、英士は意味を理解するやつだ。
英士はおかしそうに笑った。
「寝ちまって見てないくせに」
「………」
「西野から聞いた」
俺がいちいち、昨日心と一緒にいたなんて言わなくても、心の口から伝わっていた。
俺と英士のツーショットを見て、周りを歩く後輩たちの黄色い声が妙に耳障りに感じた。
やっぱり柄じゃねー。
「あ〜!もうっ!まじで腹立つ!!」
突然声を上げた俺に、英士は目を丸くしている。
当然、前を歩いてる心と佐田も驚いて振り向いた。
「英士!話あるからよ、放課後顔かせっ!」
引っ込みのつかない俺は早足に心と佐田を追い抜いて行く。
後ろから冷静な英士の声がした。
「放課後にどこ?」
「〜っ!屋上!!」
妙に生暖かい春の風がうっとうしくて仕方なかった。