想いの行方V-2
「一緒に見る?」
ピーチの香りがする心の部屋。
最近アロマにハマっているらしい。
心が鞄から取り出したDVDに俺は顔をしかめる。
「何それ?」
「DVD」
「や、それは見れば分かるって」
「速水に借りたの。これ超泣けるよ」
最近の俺は変だ。
英士によると変なのは昔かららしいが。
今までこんなダサい自分を見たことがなかった。
心の口から英士の名前が出るだけで、何かこう……モヤモヤ。
たぶん嫉妬とか言うよりも、もっとダサい感情。
「矢田、聞いてる?」
「心」
「何?」
「何で俺は矢田なんだ?」
「…は?だってあんた矢田でしょ」
「バカヤロー、そういう意味じゃねぇ」
心は険しい表情をしながら首を傾けている。
俺はずいっと心に詰め寄った。
「付き合って半年以上経つけど、何で名字?潤平て呼べばいいじゃん」
「…え、何いきなり」
「だから…!」
俺は思わず言葉を呑んだ。
そして元の距離に戻った。
ダサすぎる自分に情けなくなった。
名前で呼ばすことで「特別」を決定づけようとしたんだ。
不安感を払いのけたかったんだ。