Wait For You〜N.Side〜-2
─と。
突然、ジーンズのポケットの中で鳴る携帯のバイブ。
留守電設定はしてあるから暫くしたら自動的に留守電サービスに接続されるんだろうな…
そう考えながら私は拾ったタクシーに荷物を入れて乗り込んだ。行き先を告げるとタクシーは軽快に動き出す。
外はもう暗い。街の明かりだけがキラキラと輝きを増している。
揺れるタクシーの中、不意に今日の朝を思い出した。
『おはよ、朝ご飯とお弁当出来てるよ?』
私はベッドに今だ横たわる彼の顔を覗き込んだ。
んぅ…と眠そうに目を擦り彼は目を開ける。
まだうとうとしているその表情に私はつい口元が緩む。
『いつもありがとう』
そう言うと彼は上半身を起こして私の頬に軽いキスをした。
『…ほら、朝から甘ったるいことしてないで早く仕度しなきゃ会社に遅れるよっ』
突然のキスに私は顔を背け立ち上がる。
(恥ずかしいっ…!!)
火でもつけられたかのように顔が熱くなる。
だけど、本当は嬉しかったりなんかして…。
上手くありがとうとお返しのキスの一つや二つ出来たらいいのに、私の場合、恥ずかしくていつもあまのじゃく。
そんな私を彼は理解してくれていて、信じてくれていたと思う。
きっと今も私から別れを告げられたことを理解出来ずにいる筈…
彼を苦しめた私。
彼を傷つけた私。
大切にしたかった人を
1番傷つけてしまった。
幸せにしたかった人を
不幸にしてしまった。
それでも
別れる以外にどうしようもなかった。
彼は優しいから、私の全てを許してしまう。
だけど、私は私を許すことは出来ないの。
だから…
だからっ!!
『…っ……ふっ…ううっ…ごめんな…さい…っ!』
自分が彼にしたあまりに酷い対応への罪悪感と様々な想いが溢れて、私はタクシーの運転手さんの目も気にせず泣いた。
それでもタクシーは軽快に目的地へ進む。
辛い未来が待ってたとしても。