Wait For You〜Y.Side〜-1
『あなたと一緒は疲れたの。だからサヨナラ。』
何の前触れもなく
部屋のテーブルに置かれた紙切れと部屋の鍵。
真っ暗な部屋。
本当は明るい部屋であの人が手料理を作って“おかえり”だなんて言って、いつもみたいにテレビを見て一緒に笑って、お風呂に入って体を洗い合って、眠る頃には愛し合っていた筈なのに。
『なんで…?』
君がいなきゃ僕の声はただの独り言。
無音の部屋の中に僕の声は飲み込まれ消えてった。
理由なんて見当たらない。
だって昨日までは確かに愛し合っていた。
お互いを大切な存在だと疑いもせず信じていた。
一人よがりだった?
自分だけだった?
一方通行だったのか?
過去を反芻しても“別れ”に繋がる要因が分からない。
確かに喧嘩もした。些細な喧嘩もあれば、どちらかが妥協し我慢する事で解決した問題も山程あった。
それでも、“問題”にぶつかるたびに、一つ一つお互い納得する形で問題をクリアしてきた……“つもり”だ。
別れに繋がる過程が見当たらない。見当たらないからこそ頭の中は余計に混乱する。
朝を思い出す。
“僕の彼女”は至って普通だった…
僕が起きた頃には朝ご飯もお弁当もテーブルに上がっていた。
『おはよ、朝ご飯とお弁当出来てるよ?』
嬉しそうに彼女はベッドに今だ横たわる僕の顔を覗き込む。
背中まである長い髪が揺れて甘い香りが鼻をくすぐる。
『いつもありがとう』
そう言って僕は上半身を起こして彼女の頬に軽いキスをする。
『…ほら、朝から甘ったるいことしてないで早く仕度しなきゃ会社に遅れるよっ』
突然のキスに頬を紅く染めて顔を背け立ち上がる彼女。
彼女の言葉は他の人にはちょっとキツイ部分があるかもしれない…だけど照れ隠しなんだ。
そう。
恥ずかしさの裏返し。
そんな彼女を愛おしいと思っていた。もちろん、別れを告げられた今だってまだまだ愛おしいまま…
もう僕の彼女ではないあの人。
『愛してる?』
昨日の夜の快楽の途中…
僕が彼女に投げ掛けた疑問を想いだす。
彼女の潤んだ瞳が揺れる。
僕の下で切なそうにだけど優しく笑って耳元で囁く…
『愛してるよ』って。
(昨日の夜には愛してるって…言ってたのに…)
心の中で呟き部屋の真ん中にうずくまる。
冷えた体を暖めてくれる優しい彼女はもう居ない。
あの人じゃなきゃダメなのに。
あの人と一緒がいいのに。