想-white&black-A-1
「……んん」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
うっすら目を開けると辺りはもう薄暗くなっていて、大きな窓から見える空は淡い橙と薄紫に染まっている。
確か布団もかけずに横になってしまったはずなのに、身体の上からはきちんとかけられていたため寒くはなかった。
まだ少しぼーっとする頭を押さえながら身体を起こすとベッドから出て窓に近づいてみた。
「本当にすごいところなのね……」
目の前に広がる美しい庭の景色は私に溜め息をつく。
「目が覚めたか?」
急に背後から低い声が聞こえ、びっくりした私は身体をびくつかせてしまった。
恐る恐るそっと振り向いてみると入り口の側に英さんが腕を組んで立っていた。
「英さん……。すみません、図々しく寝てしまってたみたいで」
「別に気にしなくてもいい。あんな疲れた身体じゃどうせまともに働けないだろ」
そうだった。
私はここに働きにきたんだ。
両親がいなくなった今、これからは一人で生きていかなきゃならないのだから。
「そうですね。それで私は何をすればいいんでしょうか」
私がまっすぐ見返しながらそう言うと、英さんは片頬で笑っていた。
「俺を名字や様付きで呼ばなくていい。お前はこの屋敷の使用人にするつもりはないからな」
「え? じゃあ何を……」
「そのうちに分かるさ。もう少ししたら飯の時間になる。後で双子を呼びにやるから降りてこいよ」
「は、はい…」
英さん……じゃなくて楓さんはそう言い残して部屋を出ていってしまった。
使用人にするつもりはないって、では一体私はここで何をすればいいんだろう。
それに両親の位牌とかその後のことがどうなったのかも引っかかる。
もうすぐ夕飯だといっていたけれど、その時楓さんはいるだろうか?
次に会ったら聞きたいことがたくさんある。
そんなことを思いながら勝手にこの屋敷を動き回れない私は、瑠海さんと瑠璃さんが来るのを待つしかなかった。