想-white&black-A-8
「私の……大切な物ですって……?」
「お前の両親の位牌や墓は俺が管理している。勝手に立ち入ることは許さんし場所も教えてやるつもりはない。例えそれが娘のお前でも、な」
「そんなバカなこと……。何の権利があってそんなことをっ!」
両親の位牌や墓をこの男が?
娘の私に渡さないと言うのか。
怒りや悔しさや色々な感情が複雑に入り混じり、逆に頭の中は真っ白で目眩がした。
私はその場でドサッと膝から落ちるように床に座り込んでしまう。
身体が目の前の男に対する強い憎しみで震える。
「お前の親族はまともに管理するつもりもなかったようだからな。全て引き受けさせてもらった」
そう言って愉しげに笑う声に私は罠にかかって動けないような錯覚すら覚えていた。
出会って間もないけれど、この『英 楓』という人はきっと自分の力で不可能を可能にすらしてしまう。
絶望にも似た感情が自分を支配していく。
悔しさのあまり涙が流れ落ち、血が滲みそうな程唇を噛み締めていた。
するとその様子を眺めていた男が口を開く。
「間宮花音、お前が俺に逆らわなければあの位牌と墓は返してやろう」
「えっ……」
顔を上げると傲慢な笑みはそのままで私を見下ろしている。
「どうする? 花音次第なんだがな」
「………」
どうするも何もあったものか。
これは既に決定事項なのだ。
初めからノーという答えは存在しない。
私はこの男に逆らっては生きていけず、唯一大切な物も奪われてしまう。
英家とは人一人の人生など意図も簡単に左右できる、そんな力を持っているのだ。
「花音、何も考える必要なんかないはずだ。お前は出会った瞬間に俺の物になったんだ。どういう意味か分かるだろう? そうだな、これはある意味契約かもしれないな」
何て自分勝手で残酷な契約なのか。
私が生きるも死ぬももうこの男の掌にある。
金がなければ生きてはいけない。
学校にだって行けるものなら行きたい。
それに何より両親のものは私が守りたい。
返してほしい。
所詮私は何て欲張りな人間なのかもしれない。