想-white&black-A-7
「あの、それよりどうしてここに?」
私は話題を変えたくて思い切って話しかける。
実際なぜこの部屋にいるのか、という疑問があったこともある。
「お前の今後について話しに来た。聞きたがっていただろう?」
「あっ! はい」
そうだった。
私はここにただで住む訳じゃない。
働かせてもらわなければ出て行くこともできない。
第一いつまでもここにいる訳にもいかないのだから。
だが彼はこの屋敷で使用人として働かせるつもりはないと言っていた。
では一体何をするのだろう。
「それで私は何をすればいいんでしょう。私にできることなら何でも……」
「………“何でも”ね」
私の言葉に楓さんのヘイゼルの双眸が妖しく光る。
確かにできることなら何でもするっていう言葉は嘘じゃない。
だがその瞳を見た瞬間ぞくりと背筋が震えた。
そんな私を見て楓さんが鼻で笑う。
「どうなんだ、花音。本当に何でもするのか?」
「……もちろんです」
「そうか、なら話しは早い。それならまず始めに言っておく。これから俺の言うことは守れ、必ずだ」
そう告げた楓さんの笑みは冷ややかで、その瞳に射抜かれた私は目が逸らせずにいた。
「言っておくがお前は俺の物だ。逆らうことは許さん。もし気に入らないようなことをしてみろ。それなりの報いは受けてもらう」
楓さんの言葉はまるで人にではなくペットか何かに吐き捨てるようなセリフだった。
さっきの優しさなど嘘だったかのように。
あまりの言葉にふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「それなら私の事など構わないで放っておいて下さい。今すぐにでも出ていきますから」
私は震えそうになる声を抑えながら目の前の男を睨んだ。
「ふん、出れるものなら出ていってみるがいい。お前も見ただろう、この敷地の広さを。庭は森のようになっている。ここから一人でなど幾日かかっても出られんさ」
「そんな……っ」
「お前一人で何ができる。言っただろう、小娘一人で生きていくなど生易しいもんじゃない。すぐそこらの悪い大人に騙されて散々喰われて終わりだな。それにお前の大事な物は俺が預かっているぞ」
人を見下すように不敵に笑う男の顔が悪魔にえる。
綺麗な仮面の下に隠れた美しい悪魔の顔。