想-white&black-A-6
「る、瑠海さん? 瑠璃さん?」
「お可哀想に、花音様。お辛かったでしょう」
「もし泣きたかったら遠慮なさらずに私達に言っていいんですよ」
二人の言葉に目を見開く。
そうか、瑠海さんも瑠璃さんも私が遭った事故のこと心配してくれているのか。
あの一瞬で私は大事な両親も住む所も何もかも失った。
親戚ですら頼れる人なんか一人もいなかった。
帰る場所はもうないのだ。
でもこうして心配してくれる人がいるということは何て嬉しいことだろう。
「ありがとうございます。瑠海さんと瑠璃さんがいてくれるだけで本当に救われてる気がします」
「花音様……」
私は笑顔でそう伝えると二人は辛そうに顔を歪め涙ぐんでいた。
だがすぐに明るい声に戻る。
「さぁ、お風呂にご案内しますわ。広くて気持ちいいですよ」
瑠海さんと瑠璃さんは本当の姉のように優しくて、冷えて固まってしまっていた心が少しほぐれた気がした。
……まさか他人に身体を洗われるとは思わなかったよ。
金持ちの人というのはあんなことが普通なのだろうか
浴室に到着した途端、私の身体は双子達に隅から隅まできっちり磨き上げられてしまった。
他人に洗われることなんか慣れている訳がなく、どっと疲れが押し寄せていた。
「……今度からはきっぱり断ろ」
「何を断るって?」
「きゃあっ!」
浴室から戻ってくると、誰もいないはずの部屋から声がして心臓がぎゅっと縮み上がった。
この声は……、まさか。
「か、楓さん……?」
大きな背もたれのついた籐の椅子が音をたてて座っていた楓さんが立ち上がる。
楓さんも風呂上がりなのか艶やかな漆黒の髪が湿っていて黒のバスローブを纏っていた。
何だか酷く艶めかしく思わず息を呑む。
私は楓さんに見とれてしまっていたのだ。
私があまりにも見つめていたせいか、楓さんは怪訝そうな表情になっている。
「何だ、人をじっと見つめて」
「あっ、いえ。ごめんなさい、何でもないです」
私は慌てて顔の前で両手を振ってごまかした。
まさか見とれてしまったなんて言えるはずもない。