想-white&black-A-5
「ですけれけど、花音様は特別なのかもしれませんわね」
「えっ!?」
「きっとそうですわ。あんなに楽しそうな顔をした楓様は珍しいもの」
楽しそう……?
なぜか瑠璃さんまで満面の笑顔に疑問符で満ち溢れる。
あの綺麗な顔で何か企んでいそうな意地悪な笑みが楽しそうだって言うのか。
「そんなことありません。私は成り行きと言うか、たまたまここに来ることになっただけですから」
私が首を横に振りながらそう言うと瑠璃さんがお粥を盛り付けて差し出してくれる。
「楓様のことはこれから少しずつ分かっていけばいいんですよ。とにかく食べないのは身体に毒ですわ」
「はい。ありがとうございます」
あの人のことを理解できる日など来るのだろうか。
そんなことを考えつつもお粥を口に運ぶと、何だか久しぶりの人の温もりに触れた気がして思わず涙が滲みそうになった。
夕食を終えて自分の部屋に戻った私は何だか落ち着かずに部屋を行ったり来たりを繰り返す。
「こんなに無駄に広いと落ち着かないなあ」
ここに来た時何も持たず着の身着のまま来てしまったから、携帯もなく何もすることがない。
勢いで来てしまったが、やっぱりここに来たのは間違いだったかもしれないとふと思ってしまう。
英グループの御曹司だというのも本当なのか分からない。
何か騙されてたりとかしているんじゃないだろうか。
そう考え始めるとどんどん不安が胸の中に広がって止まらなくなる。
とんでもないところに来てしまった……。
そんなことをグルグルと頭の中で巡らせていると突然ドアをノックする音が聞こえた。
「は、はいっ」
楓さんが来たかもしれないと心臓が飛び上がってしまいそうになる。
どうもまだあの人と二人きりで話すことに抵抗があった。
「花音様、瑠海と瑠璃です」
扉の向こうからは瑠海さんの声が聞こえてきてほっと胸を撫で下ろす。
私は深く息を吐いてから近づくと扉を開けた。
「花音様、お風呂のご用意ができましたわ」
「今日はいろいろとあったからお疲れでしょう」
「……そうですね。そう言えば最近はゆっくりお風呂なんて入ってないかもしれません」
私がつい暗い表情を見せたのか、二人は心配そうな顔になり私の手をそっと握ってきた。