想-white&black-A-4
「私のために?」
そう尋ねたが楓さんは顔色一つ変えずに横を向いてまた書類に視線を落とした。
どうして今日会ったばかりの私にこの人はこんなことをしてくれるのだろうか。
この人は冷たいのか優しいのかさっぱり分からない。
だがその気遣いにほんの少し心が温かくなったような気がしていた。
「ありがとう、ございます」
私が頭を下げてお礼を言うと目だけをこちらに向けて悪戯っぽく笑った。
「ふん。お前はここで働くんだろう? 身体が弱いと持たないぞ」
その言葉の裏には何かしらの意図があったことをこの時の私は全然気が付かなくて。
ただこれからここで与えられる仕事は体力を使うんだろうというくらいの意味にしかとらえていなかった。
「悪いが俺は用があるから先に行く。後で呼ぶからそれを食べて風呂にでも入っておけ」
「は、はい。分かりました」
楓さんは側近の人達と部屋を出ていくと、私と瑠海さんと瑠璃さんの3人だけになったのだった。
「ふふっ」
「楓様ったら」
楓さんが出ていった後残された私と瑠海さんと瑠璃さん。
途端に瑠海さんと瑠璃さんがクスクスと笑い出した。
私はその中で一人訳も分からずぽかんとしてていたと思う。
「瑠海さん? 瑠璃さん? ええっと……」
「すみません、花音様」
「あまりにも楓様の様子がおかしかったものですから」
そう言いながら二人はまだ笑いが込み上げてくるらしく、笑いを堪えている。
それから少しして落ち着くと訳を話してくれた。
「あれは楓様なりの優しさなんですわ、きっと」
「あんなこと、例え女性の方にだってされませんもの」
「どういうことですか?」
私がそう尋ねると二人は少し目配せをし合うとなぜかふと悲しそうな表情を浮かべた。
「楓様は……正直言ってあまりお優しい方ではありません」
「子供の頃からこの英家の当主となるべく厳しく育てられましたから、帝王学と共に常に冷静さ、冷徹さを求められていたそうですから」
「そう……なんですか」
何だか信じられないような気もしたが、あの威圧的な雰囲気はそのせいなのかと納得もできた。
だがついさっき出会ったばかりで、確かに愛想はなく口は悪いがそんなに悪い人には思えないのも正直な気持ちだった。
そんな事を頭の中で思い巡らせていると、瑠海さんがニコニコと笑顔を浮かべながら口を開く。