想-white&black-A-3
「いえ、何だかまだあまり食欲がなくて……」
最後の方はほとんど消え入りそうなこえだった。
初日から食べ物を残すなんて失礼な奴だと思われたかもしれない。
「……そうか。瑠海、瑠璃」
だが楓さんは瑠海さんと瑠璃さんを側に呼ぶと何やら耳元で話し始めた。
「かしこまりました」
「すぐに用意させます」
双子達は楓さんに向かってそう言うと部屋を出ていった。
「あの、楓さん。ごめんなさい、私……」
私は楓さんに謝ったがちらりとこちらに視線を向けただけで何も言わず、長い脚を組んで書類のような物に目を通し始めるだけだった。
「………」
やはり怒らせてしまっただろうか。
私はそれ以上何も言えずにただうつ向くしかできなかった。
それからしばらくすると部屋の扉が開かれて瑠海さんと瑠璃さんが戻ってきた。
押してきたワゴンの上に何かが乗せられているのが見える。
側まで運ばれてきたあまりにも意外な物に私は目を瞠はった。
「土鍋……?」
それはまるでどこの家にもあるような土鍋だった。
もちろん英の家にあるものなのだから、びっくりするほど高級な土鍋ではあるだろうけれど。
だがしかしこの屋敷には何て似合わないのだろう。
そう、普通の家庭にあるような物がここには全く似合わない。
それだけでも驚きだったが、楓さんの側に控えていた側近の人達も驚いたような表情を隠せないでいるようだ。
土鍋が私の目の前のテーブルまで運ばれてくると、瑠璃さんがその蓋を開けた。
その瞬間、湯気が立ち上ぼり向こう側にいた楓さんの姿が霞がかる。
中にあったのは真っ白なお粥だった。
その隣に並べられた小皿には梅干しや漬け物が盛られていて何だか拍子抜けしてしまう。
「あの……、これ、は……」
思わず聞かずにはいられない。
だが私の言葉に楓さんは目を眇め、何を言っているんだとでも言いたげな表情になる。
「見れば分かるだろう。お前は身体も精神的にも疲れているから食欲もないんだ。かと言って食べないのは身体に毒だからな」
言い方は相変わらず冷たかったが、その言葉の意味を考えればそれはつまり……。