想-white&black-A-2
―――コンコンッ。
楓さんが部屋を出ていってから三十分後、ドアをノックする音が響いた。
「あ、はいっ」
返事をすると楓さんの言っていた通り、双子達が顔を覗かせる。
「失礼致します」
「お夕食のお時間になりましたわ」
「はい。分かりました」
瑠海さんと瑠璃さんの後について屋敷の中を進んでいき、一階に降りると大きな扉が開かれた。
「わ……」
今まで見たことがないような豪華な食事が白いクロスが掛けられたテーブルに乗せられている。
「さ、こちらのお席へどうぞ」
「あ……、ありがとうございます」
瑠海さんが引いてくれた椅子に戸惑いながらも座る。
まるで高級なレストランにでも来たような錯覚に陥りそうだ。
だがこんな風に扱われると逆に萎縮してしまう。
私はここで働くために来たのではなかったか。
目の前の豪華で華やかな料理は色とりどりに並べられていて本当に美味しそうだった。
「楓様がいらっしゃったみたいですよ」
瑠璃さんの言葉に私は顔を上げる。
現れた楓さんはさっきまでの黒いスーツ姿とは変わって、白いシャツにデニムといういたってラフないでたちだった。
だけどこんなシンプルな服でも楓さんが着るととても様になって見えるのが不思議だ。
楓さんは正面の席につくと私をじっと見つめてきた。
強い眼差しに見られていると妙に緊張してしまって居心地が悪い。
その空気に耐えられなくなり思わず口を開いた。
「あの、何か……?」
「何でもない。気にするな」
そう言うと楓さんはナイフとフォークを持ってさっさと食べ始めてしまった。
半ば呆気にとられながらもつられるようにナイフとフォークを持って食べ始めたが、今まであまり食べていなかったせいか目の前の豪華な食事は半分も食べられずにいた。
せっかく用意してくれたのに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
無理にでも食べようと試みるのだが、緊張のせいなのかなかなか身体が受け付けてくれない。
そんな私の様子に楓さんが目を細める。
「あまり口に合わなかったか?」
先に食べ終えていた楓さんが私に話しかけてきた。
その声にはっと顔を上げると楓さんと視線がぶつかる。
彼の前にある皿は全て綺麗に平らげられていた。
しっかりと見ていた訳でもないし、マナーに詳しい訳でもないが楓さんはとても綺麗にに物を食べる人だと思った。