DEAR PSYCHOPATH−11−-2
「どこ行くのよ」
早口で鈴菜が言った。
ドアのノブを回すなり、
「コンビニ。食べ物を買ってくる」
「ピザ、まだるよ」
「いらない。買ってくる」
外へ出てドアを閉める。長いため息をついて、苦笑した。
「まったく。あの空気には耐えられないな」
アパートから出ると、溶ける程の日光が僕の背中を射してきた。僕は手のひらで顔をあおぎながら、陽炎の揺らめく道を進んで行った。簡単にコンビニと言ってしまったが、そこまで行くには結構な距離があるのだ。
気がつくと空はあかね色に染まっていた。アイスクリームにサンドイッチ、あとはウーロン茶のボトルを二本の入った買い物袋を両手にぶらさげながら、僕はアパートの階段を二段とばしでかけあがった。コンビニに行く前に、途中にある本屋で立ち読みしてしまったのがいけなかった。ほんの少しのつもりが、つい夕方になるまで読み耽ってしまったのだ。
鈴菜の部屋を通り過ぎ、数歩引き返す。
「ただいま」
ドアを開けると、中は静まり返っていた。下を見ると靴はあるので、出かけてはいないらしい。そもそも鍵が開いているのだからそんなはずはないのだが、それにしてもこの静寂は不気味だ。二人そろって寝ているのだろうか。
そっと靴を脱ぎ、しのび足で短い廊下を行き、半開きのドアの前に立つ。深呼吸をする。きっと二人はあのソファの上で仲良く昼寝しているに違いない。何をそんなに緊張する必要があるんだ。そうさ、きっと二人は・・・と、ドアの隙間から顔をのぞかせる。息が止まった。馬鹿な!と、ドアを突きとばし部屋の中へ飛び込み、辺りを見回す。差し込む夕日が照らし出したのは、死んだようになった、無人の部屋だった。
ソファは破れ、埃が漂い、反射して光っている。椅子は倒れ、足元には色々なものが落ちていた。僕はふらふらと後ずさり、背中に壁があたると、その場へ座り込んだ。突然の出来事に、動悸がまだ治まろうとしない。
ふと手元にある電話を見ると、留守電が入っているのが分かった。もうろうとした意識の中で再生を押すと、「イッケンデス」という機会の声が流れ、その後にテープが続いた。
『やぁ、忍君、帰ったかい』
全身の毛が、一気に逆立った。彼だ。この声の主はまさしく彼のものだ。
『どう?傷の具合は、だいぶよくなった?この数日間、僕はわざと君らをほおって置いたんだ。ここにいることは知っていたよ。あの流とかいう奴の車に発信機をつけておいたんでね』
「何?」
『とにかく、決着をつけようかと思う。君らは僕にとって邪魔な存在なんでね。
特に完全に覚醒されると、こっちの命も危うい。美人二人は預かった、心配いらない、殺しはしないよ。まだね。君を殺した後だ』
スピーカーからは、いやらしい笑い声が聞こえていた。やっと正気を取り戻した僕は、壁を力いっぱい殴りつけ、歯をきつく食いしばった。
エド・ゲイン、お前はどこまで汚い奴なんだ!
『・・・そこでだ、僕らのいる場所を教えてあげよう。君が僕に殺されにくるようにね』
僕の眉毛がピンッと上がる。
『時間は二十二時、場所はここからそう遠くはない、七丁目にある高橋という豪邸だ。そこら辺まで来ればすぐに分かるよ』