主役不在-1
「おいっ!本宮どこだ本宮ぁ!!」
腕組みをして忙しなく動き回っている神雄部長が叫びました。
「まだ見つかんねぇのか本宮は!?」
「さっきからケータイ鳴らしてるんだけど出なくて…!」
副部長の葉子先輩はケータイを耳に当てたまま、部長を見上げました。やはり部長ほどではないにしろ言動の節々に焦りが…。
それもその筈です。
今日は僕らの中学校の文化祭。二日間に渡って行われる一日目です。
今ステージでは吹奏楽部による演奏が行われています。でもそれもあと10分で終わり。
そしたらその後は、僕ら演劇部による演劇発表があります。演目は『オズの魔法使い』。
僕ら演劇部はステージの裏で待機しているのですが、なんと『ドロシー』役の本宮エマ先輩がいないのです!!
「エマってばどこに行っちゃったんだよ。あいつがいなきゃオズの魔法使いは出来ないってのに。ったくあの子は本当にいっつもいっつも…」
オズの魔法使い脚本・音響担当の匠さんがはぁっと頭を抱えました。
まるで手の掛かる妹の面倒を見る兄弟のようです。
エマ先輩、本宮エマ先輩は日本人とアメリカ人のハーフです。色素が薄いのか、髪も目も薄い茶色で肌も透き通るような白色をしています。薄い唇はほんのりピンク色、背丈は普通ですがスタイルがいいので隣に並んだ時に物凄く驚いたのを覚えています。もっと身長が高い人だと思っていました。
とりあえず、アメリカ生まれのドロシーにはもってこいの配役なのです。
が。
「エマ先輩、早く戻ってきてぇ…」
僕と同じ照明係で一年の麻紀が手を合わせながら呟きます。
エマ先輩はびっくりするほどマイペースな人です。入部して数ヵ月ですが、そのマイペースさは嫌と言うほど味わって来ました。
「エマ先輩なんてほっときゃいいんですよ!」
突如自信ありげで高らかな声が響きました。
里奈先輩です。
「部活に来てもボーッとして、いきなりフラッといなくなって主役のくせに、正直イライラしてたんですよ!」
里奈先輩は何かしら、いつもエマ先輩に突っ掛かっていました。それは一年生である僕らにもすぐに分かりました。
ほんわかしているエマ先輩とは対照的で、生真面目な里奈先輩。悪い人ではないけれど、エマ先輩とウマが合わないのは何となく分かる気がします。
「ほっとける訳ねぇだろ!あいつは主役だぞ!?」
部長はライオンの如く吼えました。ちなみに部長は勇気が欲しいライオン役なのです。
「私達にしてみたら最後の舞台なんだからね」
興奮した里奈先輩を諭すように、北の良い魔女役の葉子先輩は優しく言いました。
「校内中探したんすけど…いません!」
肩で息を切らしながら入ってきたのは心が欲しいブリキ男役の、二年生の健太先輩です。