主役不在-4
「ンフフー!ピンマイク!ゆうりちゃんにお願いして借りてきちゃった♪」
ちなみにゆうりちゃんとはうちの中学の生徒会長さんです。
「何で今更…!?毎年、劇の声が遠くまで聞こえないからって言っても貸してくれなかったのに…」
匠先輩の呟きに、エマ先輩は「あわわわっ!」と言いながらブンブンと手を振りました。
「あっ間違えた!違うの違うの!ゆうりちゃんが生徒会倉庫の鍵をウッカリ落としてぇ、それをエマが拾ってこっそり持ってきたの〜っ!」
アワアワオロオロしているエマ先輩を見て僕たちは笑いました。あの里奈先輩でさえクスクスと笑っています。
三年生の先輩たちの固い絆を、改めて見せつけられた気がしました。
麻紀なんて泣きながら笑っています。
ステージでは最後のハーモニーの余韻を残して、吹奏楽部の演奏は終了したようでした。
「よし、次は俺たちの番だ!思いっきり魅せてやれ」
「はいっ!」
僕たちは声を揃えました。
そして円陣を組みます。
これは毎回の恒例行事で舞台の前に必ず行います。
「っしゃ行くぞぉ〜…」
「ッシャァーッ!!」
そしてそのまま『僕らが立つステージに幕が下ろされました。』
カーテンの向こうからは割れんばかりの拍手が沸き上がっています。
僕らは円陣を解いてもステージの上から暫く動けませんでした。
先輩たちの目からは涙が零れています。
葉子先輩とエマ先輩は抱き合って泣いていました。
演技中から涙目だったのは知っていたけど、とうとう堪えきれずに流れてしまったようでした。
かくいう僕も同じ状態なんですけど。
2ヶ月前に文化祭の台本が出来たと言って匠先輩が持ってきたのは、アドリブだらけのほぼ白紙の台本でした。
しかも部員全員が出演。
そして役柄は自分。他でもないありのままの自分自身を演じるものでした。
吹奏楽部の演奏はあらかじめテープに取って本番流すだけでいい。照明もいらない。幕は進行役の生徒が降ろしてくれるとのこと。
台詞なんて覚える必要ない。その時その時の気持ちを表現しろ。匠先輩は台本を配りながら僕らにそう言いました。
実を言うと、今までの練習の流れでは里奈先輩がドロシー役で演じることが決まったところにエマ先輩が戻ってくる、というものだったのです。
それなのに部長…。
演技中の台詞は全て、自分の感情から産み出された自分の言葉なのです。
『誰もが主役で誰もが脇役。最後にそんな、演劇をしたいんだ』
練習中に匠先輩がポツリと呟いた言葉を思い出しました。
また、僕の目からは涙が…。
僕は泣きながらみんなと一緒に先輩たちに拍手を送りました。
誰もが主役で誰もが脇役。そんな劇の題名は…
『主役不在』
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