主役不在-3
「あの、オレも里奈の言うことは間違ってないと思います…」
「オレも…」
健太先輩と諒先輩が気まずそうにぼそっと呟きました。僕ら一年生トリオもこくこくと頷きます。
部長、葉子先輩、匠先輩は困ったように顔を見合わせていました。
そして
「悪い」
部長が頭を下げました。
「俺たち、やっぱ全員揃わないと意味ねぇんだわ」
「一年生からずっと一緒だったもん。あんな子でも仲間なの、ごめんね里奈」
葉子先輩は俯く里奈先輩をそっと抱き締めました。
「悪いな、自分勝手な先輩ばっかで。お前らはこうなるなよ!」
匠先輩はハハッと苦笑いをしました。
そして、吹奏楽部の演奏は最大の盛り上がりを見せています。
「俺、生徒会に演目変更って伝えてくる。代わりに俺と神雄で漫才しますって。いい?里奈」
匠先輩は優しく里奈先輩に問い掛けます。里奈先輩は暫く黙っていた後、涙を一つこぼしてこくんと確かに頷きました。
「だとよ。峯村、頼んだぞ」
「おう」
忘れていました。
僕はこの四人の三年生に憧れて、演劇部に入ったのでした。この人たちのように、一目見ただけでこんなにも強い絆で繋がっている。そんな先輩たちに少しでも近付きたかったのです。
それなのに代役だなんて馬鹿げていました。
麻紀も佑樹も少し涙ぐんでいるようです。
「よし、行ってくる」
匠先輩が僕らに背を向けた瞬間
「みんな見て見てー!」
なんと、このゴタゴタの元凶、エマ先輩が何かを高らかに持ち上げながら、さも当たり前のように入ってきました。
「…!」
誰も何も言えず固まっていました。
あまりにも自然で唐突な登場に、僕らの思考が追い付きません。
「あれー、どぉしたのぉ?ねぇねぇ、つけてみてー!はぁーい!」
エマ先輩は屈託の無い笑顔で何かを配り始めます。
役を与えられてる人だけにそれは配られているみたいです。
「これ…エマ…?」
葉子先輩はそれを見て不思議そうにエマ先輩を見つめました。
エマ先輩は嬉しそうにニッコリ笑って後ろで手を組んでいます。先輩が動くたびにふんわりと結われたオサゲが揺れました。