遠恋ーえんれんー泪side-2
「千葉の桜は満開かな‥。」
美音。
高校生の時、よく学校抜け出してお花見行ったっけ。
毎年必ず行ってたけど、3年前の春から行ってないね。
一緒に見れなくていいから、違う場所にいてもせめて同じ時に同じものを見れたら‥なんて思ったけど、美音が桜を見るのは4月で僕は1月。
そんなちっぽけな夢さえ叶わない。
朝見た夢が僕の思考を悪い方向へ蝕んでいく。
夢の中の僕らも遠恋をしていて、全然会えなくて、すれ違って別れてしまう。
夢の中の僕は離れてく美音に何も言えずに立ちすくんでる。
引き止めても拒絶されるのが怖いんだ。
怖くて怖くてしょうがないんだ。
夢の中だけじゃなくて現実の僕も変わらない。
臆病で、美音を引き止める勇気もない。
遠恋が辛かったら止めてもいいよ、なんて冗談まじりに言って。
本当は美音の方から、遠恋が辛いって言われるのが怖くて自分から先に言ってしまうだけの臆病者だ。
「あっちぃな‥」
沖縄はすでに夏の気候だ。
容赦なく照り付ける太陽に憎しみさえ感じる。
一人考えに耽っていた僕はいつの間にか歩くのを止めていたらしく、慌ててまた歩き始めた。
「‥ーい!るーいせんぱーい!」
「?」
僕の名前を呼ばれた気がして振り返ると‥こっちにものすごい勢いで走ってくる姿が見えた。
「ん?‥イレー‥?」
「‥先輩!歩くの‥早いよ‥つか‥イレー‥って呼ばないで‥って‥何回言えば‥わかるん‥ですか‥!?」
ゼィハァと息を切らしながらまくし立てる女の子。
伊礼真桜(いれいまお)ちゃん。18歳。
僕はイレーって呼んでる。
沖縄じゃ別に珍しくない名字らしいんだけど、千葉県出身の僕にはあまり触れる機会のない珍しい名字だと思う。
「だってイレーはイレーだろ?」
「‥下の名前で呼んで下さい。」
「やだよ。」
「なんで!?イレーなんて嫌です!カレーじゃないんだから!真桜じゃなきゃ嫌!」
うるさいうるさいと軽くあしらう。
しつこいんだよな、イレーは。
後輩としては可愛いんだが。
そうそう。
イレーは、今僕が勉強のために参加している琉球舞踊のグループの後輩だ。
顔は可愛い方だと思う。
沖縄人っぽい、目鼻立ちがくっきりした顔をしている。
まぁあまり興味はない。
僕は美音にしか興味がわかないから。