……タイッ!? プロローグ「覗いてみタイッ!?」-6
「それが香山の? へー、サポーター使ってたんだ。つか、忘れるか? 普通」
薄ら笑いを浮かべながら下着を取る男子。そしてクロッチに鼻先を近づけ……。
「うあ、クセー、ションベン? つか、やべー匂いだわ……」
「へー、どんなん? ……、うわ、くっせー」
「ぎゃはは、香山ってさ、いつもきつい感じだけどさ、何? 体臭まできついわけ?」
「俺は匂いきついくらいが好きだけど……」
「なんだよ、やっぱりお前あいつのこと好きなんじゃないか。ならさ、これ穿いてしこれよ」
白い布を気弱そうな男子の白いサオに被せ、
「え、まずいだろ、それは……」
「問題ねーよ、つか、本人だって忘れてるさ」
――あんた達のおかげで思い出したってば。
生理的なモノを臭いと貶され、それでも性の対象にされることに、怒りと羞恥を覚え始める。
自分が一体何をした? 確かに、男子部員をぞんざいに扱ったりもした。しかし、その陰で自慰の対象にされるなどと、割りに合わない。それにすでにスパッツを一つダメにされているのだ。明らかに彼等の方が悪。
「あ、あぁ、いいよ、香山さん、香山さんのキモチイイ」
――あたしはすっごく気持ち悪い。頭の中でレイプされるのも不快だ。いっそのこと通報してしまおうか? いや、それはダメ。次の大会に出られなくなる。ならどうすれば?
隣では男の子の性徴に目を丸くしていたはずの愛理が、食い入るように見ている。
彼女は自慰の対象にされていないせいか、それとも男に飢えているせいなのか、どことなくその惨状を楽しんでいるようにも見えた。
「男の子って、ああいうので気持ちよくなるんだ。なんか可愛いね」
「はぁ? 何言ってるんですか? あいつらのどこがかわいいんですか!」
場違いな発言に、思わず声を荒げてしまう。
「だってさ、ほらあの子、皮被ってる子、包茎かな? さっきからクチュクチュさせてさ、たまに見えるピンクの先っぽ、あ、ほら、可愛いじゃない」
ショーウインドウに飾られているヌイグルミを囃し立てるブリッコ高校生のように中の様子を見る愛理は、皮被りの子に夢中らしい。
言われて里美もそれを見たが、「はぁはぁ」と荒い息を着きながら亀頭の先端を皮に出し入れする様子は醜悪としか思えなかった。
――先生ってショタコンなのかしら?
だとすれば恋人が出来ない理由も頷ける。彼女の外見からして、庇護欲をそそられる世の男性陣は、おそらくガタイが良かったり理知的であったりするのだろう。ただ、それらに彼女が興味を持てないのなら、出会いの有無に関わらず春など別次元の話でしかない。
「先生、ひとまず今日は帰りましょう」
「まって、佐伯君がイクまで待って……」
――そういえば包茎の男子は佐伯和彦とかいったはず。これからは包茎と呼んでやろう。
未だ食い入るように窓に張り付く愛理のジャージを引っ張り、里美は部室棟をあとにする……が、
バツリ……ッ!
誰かの捨てた割り箸を踏んだらしく、その存在が開いた窓から気付かれる程度の音を立てた。
「誰だ! 誰かいるんか!」
気付いた男子部員達は窓を全開にして外を見る。
すでに日は沈んでおり、ワインレッドのジャージならそう目立たないはず。しかし、隣にいる顧問は今もドピンクのジャージ。
「平山さん、みてたんかい……」
他にこの色を身につけるものなど居らず、愛理であると特定するに数秒とかからなかった。