イヴの奇跡V-3
『連れないなぁ〜。一人なのに…ふーん。折角……』
『…せっかく?』
だから何よと睨みつけるイウ゛。
が、男は全く動じることもなくスッとイウ゛の耳元に顔を近づけて囁いた。
『〜……。』
『??!』
イウ゛は瞳を丸くして固まったまま…
『じゃ♪またどっかであったらよろしく♪多分また逢うと思うけど♪』
手をヒラヒラと動かし彼は何事もなかったようにイウ゛の横を通り過ぎていく。
『ま…待ってっ!』
そう言って振り返った時にはもうその男は人込みに紛れて居なくなっていた。
その時だ。
『おい!!』
グイと引っ張られた体。
『…やっ!』
さっきの男かと思ったイウ゛は思わず手を振り払おうとする。
『おまっ…こら!イウ゛!俺だぞ!?』
『あ……』
聞き覚えのある声に顔を上げたイウ゛の瞳に映ったのは、本来1番に逢う筈だった大切な人…
『なに…やってんだ…人の会社の下でっ!』
息を切らしてイウ゛の腕を掴んだのは神崎だったのだ。
イウ゛は知らぬうちに神崎の会社の前まで来ていた。
『圭ぇ〜…』
安堵からイウ゛は神崎の胸に飛びつく。
『おまっ?!バカ!会社の前なんだぞ!!』
そう言いながらもイウ゛を自分から引き離そうとしない神崎。
『それより…さっきの男…イウ゛の知り合いか?』
そして少し不機嫌そうに尋ねる。
『圭…見てたの?』
パッと顔を上げるイヴ。
『…あぁ。丁度窓からお前が見えたんだよ。で?誰なんだ?』
会社の窓から見つけたイウ゛に変な虫が纏わり付いていたのを見掛けて、神崎は会社のエレベーターも使わずに階段を駆け降りてきたのだ。
『う〜ん…それがわからないの。初めて逢った人だった。』
少し俯いてイウ゛が言う。
しかし表情は困惑した様子だ。
『ただのナンパ…じゃなさそうだな……ここで話すと人目にもつくから俺の会社に来い。』
そう言うと神崎はイウ゛の腕を掴んだまま会社の入口へと足を進めるのだった。
場所は変わりここは神崎の持つ会社の一室。
此処ではお洒落なデスクが並び皆が必死にパソコンに向かい仕事をこなす場所。
沢山の部下が性別に関係なく集まっている中を神崎とイヴは歩いていた。