イヴの奇跡V-2
*
神崎が居なくなった静かな部屋。
『もぉ…いつになったら秘書にして貰えるのぉ〜…?』
ペタンと玄関に座るイウ゛。
『勉強も毎日してるし、パソコンも使えるようになったし、難しい言葉だって覚えたのにーーっ!』
大きな独り言が部屋に響き渡る。
秘書になれば常時側に居れると神崎が言うからイウ゛なりに今まで努力してきたのだ。
それなのに神崎は秘書の“ヒ”の字も出してくれない。
『こうなったら…ひっそり…着いてっちゃおうかなぁ…』
そうと決まればとエプロンを揺らしイウ゛は着替えに移る。
クローゼットからチョイスしたのは薔薇が付いてるピンクのバルーンワンピ。裾にフリフリがついていて神崎の会社のブランド物だ。
それに同じブランドの黒の緩いカーディガンを羽織って小さいからし色のショルダーバッグを下げる。
足首をリボンで結ぶサンダルに足を通せば…
『かんぺきーっ♪』
そう言って玄関にある全身鏡で自分の格好をチェックし、扉を勢いよく開けて外へと飛び出た。
季節は春なだけに外は暖かく優しい風がイヴの頬を掠めていく。
歩道の隅には花が植えられ鮮やかに色づいている。
しかし…そんな春の訪れを気にすることなく人々は忙しく足早に動き回る。
それぞれがそれぞれの目的を持ちせっせと働きアリのように交差して行くのだ。
もちろん、イウ゛もその中の一人。
暫く歩いた頃。
イヴはゆっくりビルのひとつひとつを確かめるように歩き出す。
『圭の会社は……確かぁ…』
キョロキョロと見渡すイヴ。
―と。
『ねぇ、君っ!』
突然、誰かがイウ゛の肩に触れた。
『ふぁ!?』
びくっと肩を上げて驚くイウ゛。振り返ると二十代ばかりの若い男性が一人。
パーマをかけているであろう黒髪に縦ストライプのYシャツ。胸元からは大きめのクロス。そして黒の細身のパンツにブーツ
ベルトやら指輪やらアクセサリーが好きなのかデザインに凝ったものが目立ち、見た目から“いかにも”軽い感じがする。
『可愛いね…顔も服装も。もしかして一人なの?』
人懐れしたように男はイヴに近づく。
『一人だったら…何ですか?』
こうゆう輩には冷たくあしらえと神崎に言われているイヴは冷たい態度で対応する。