〜prologue〜-5
「…ふう…」
すべての器が空になるまで15分と掛らなかった。ようやく満たされた雛子は、箸を置くとその場にゴロンと寝転がった。
実家では絶対に出来ない態度だ。
「いよいよ、私が先生かあーッ」
軽く伸びをして天井を見た。小さな裸電球が発するオレンジの光が部屋をぼんやりと照らしている。
ここに至るまでの様々な事が彼女の頭に浮かんだが、それらは後悔でなく、希望に繋がるモノだった。
「さてと、洗いモノをやってお風呂に入ろっと」
雛子は起き上がり、空の器を台所に溜め置いた米の研ぎ汁で洗い、水ですすいだ。
それから、慌ただしく入浴を済ませて布団を敷いた頃には、時刻は11時近くになっていた。
「…なんだか、バタバタした1日だったな…」
ちゃぶ台を畳み、茶の間に敷いた布団に潜り込む。電球を消すと、真っ暗な闇と音のしない空間にひとりきりの雛子。
「…明日も早起きして…水汲みや…焚物切りを…」
怖々しい状況も眠気には勝てなかった。雛子は、すぐに寝息を立てだした……。