ノスタルジー・アンゴワス-6
桔梗の家紋の刺繍を入れた旗をはためかせ進む。気持ちを表しているように、天気は良くない。
雲のせいで星の光は遮られていた。星を見れば落ち着くというのに……。
この場に来てもまだ悩んでいた。作戦開始はもうすぐだというのに。もともとこの作戦は乗り気ではなかった。無理矢理手伝わされたにすぎない。
主君の評判は――一部では――すこぶる良くない。批判的な声が大きい中私は黙ってついていった。そういう仲間も増えていった。だが、あるとき仲間の一人が言った。
「やり過ぎだ」
そして、あちらこちらから声が上がり、計画がなされ、いま実行されようとしている。
気持ちは未だ晴れない。だが、もうあとには引けなかった。この手で主君は討てない。共に戦った仲間たちも討てない。でも、未来へ進むために、方法はなかった。これしかなかった。そして、彼はすべての軍勢に叫んだ。
「敵は本能寺にありッ!」
『苦悩』
薄々気付いていた。家臣どもが反乱の準備をしていたことは知っていた。だから、甘んじて受けた。家臣あっての主君、主君あっての家臣なのだから……。
しかし、心残りもある。目標に掲げていた『天下布武』が完全に出来なかったこと、そして、この日本の行く末を見ていくことが出来なかったことだ。だが、未練を残さない。そう誓ったのだ。
「蘭丸はおるか?」
「はっ。います! 何かご用でしょうか?」
「火を放てぇ!」
「し、しかし……」
「放てぇ!」
「承知しました!」
すぐにあちらこちらから火があがった。これでいい。何も残さず、旅立てる。
立ち上がり、まだ燃えてなかった扇子を手にすると、幸若舞を舞った。最後の幸若舞は、どこか切なく、どこか昂揚した気分にさせた。死ぬのも悪くない。そう思わせるように……。
『人間五十年。下天の内くらぶれば、夢幻の如く也。――――』
End