ノスタルジー・アンゴワス-5
「もう籠城戦に切り替えるしかない……」
そう言った。誰が口火を切ったのかわからないが、その意見は一斉に広まり、籠城戦しかないような雰囲気になっていた。だが、一人だけ反抗するものが居た。
「籠城戦は本来援軍をアテにして戦うことです! 援軍なんて期待できないでしょう!?」
「しかしだね……」
「私は反対です!」
「もうどうしようもないだろう……」
もう勝ち目はない。それが皆の共通な意見に違いないが、反対した男だけは諦めていなかった。一時は諦めたときもあった。だが、様々なことを通して学んだ。諦めてはいないことを。
「失礼します!」
これ以上言っても無駄と知った男は一礼して、部屋を出た。ふと空を見上げると、晴れ渡っていた。どこぞの男たちの気持ちなどに影響されないように。
こんなところまで生き延びちまったよ。
後悔はあった。苦楽を共にした仲間たちはもう少ししか残っていないのだから。だが、みんな戦いの中で死んでいった。武士としては本望だったに違いない。
『死に場所』
自分の部屋に戻ると、今まで着た服を脱いで、昔の服を着直した。この想い出のこもった服を死に装束と決めていた。しかし、死ぬとは思っていない。勝つ。勝ち続ける。そんな思いを抱いていた。
馬小屋まで行くと、彼は叫んだ。
「馬を出せ!」
「し、しかし……。それにその格好は……?」
「いいから出せッ!」
その威圧感は健在だった。馬を世話していた人物はその威圧感に圧倒され、馬を出した。
彼は馬にまたがると、すぐに馬は走りだした。敵本陣に着くまで、物思いに耽っていた。それは走馬灯に似ていたのかもしれない。だが、死ぬ気はない。それだけは確かだった。
ものの数分で本陣に着いた。やはり最新の鉄砲の数々。しかし、怯むわけにはいかなかった。怯えるわけにはいかなかった。あいつらをぶっつぶす。それは今の今まで、そして、これからも変わらない。
彼は敵に聞こえるように、天に届くように、死んでいった仲間たちに届くように、叫び、そして、駆けた。
「新撰組副長、土方歳三! いざ、参る!」
End