ノスタルジー・アンゴワス-2
頼橋裕也(たのはしゆうや)はブラックの缶コーヒーを片手に、屋上にあがると大きく伸ばした。隣には同僚の佐藤拓磨(さとうたくま)もいる。
「ん〜」
二人揃って、徹夜明けだった。今日までやらなければいけない仕事をついさっき終えたばかりで、気分転換の為屋上に上がってきたのだ。ちょうど朝日も昇るところで、二人は朝日を見ながらため息をついた。
「はぁ〜、疲れた。徹夜したのって、大学の時以来だよ」
「裕也って、力だけは無駄にあるよな。痩せてるのに」
「うるせ〜。たぶん雪よせとか頑張ったからだよ、力ついたのは」
「雪よせ? あれ、お前ってここ――東京の出身じゃなかったけ?」
「言ってなかったけ? オレは秋田の生まれだよ」
そういうと故郷に対して思いを馳せた。
地元は田舎で、自動販売機は近くにあっても、コンビニやディスカウントショップなどは車で、30分くらい走らなければ無かった。それでも小中高と地元で過ごした。大変だったが、苦労はしたことはなかった。
そして、ちょうど今頃――5月の上旬には桜が満開になり、8月になると全国的に有名な花火大会がある。地元市民として、自慢だったし、活性化することは嬉しかった。
ただ、町や村が合併してしまって、町の名前を失ってしまった。何かが変わるわけではなかったが、良い気分はしなかった。
地元はよかった。でも、あそこにはもう戻れなかった。
『早朝サウダージ』
朝日の光が目にはいった。思わず現実に引き戻された。
「さーて、そろそろ戻るか〜!」
故郷を思う、ことをしたくはなかった。ホームシックではないが、そういうと気持ちで仕事をすると、仕事に悪影響を及ぼすと思っていたからだ。
でも、たまには思い出しても良いな。そう感じた春の朝。
End