想-white&black- @-8
『英グループ』と言う名前は知っている。
と言うよりこの日本で知らない人がいるのかと思うほど巨大な組織だ。
今では世界を股に掛ける、日本を代表する大グループの一つとなっているのだから。
そこの御曹司、正式な後継者。
だからあんな一般人とは異なる雰囲気を持っていたのか。
私は英さんの正体を知ってますます疑問を深めるばかりだった。
そんな雲の上の様な人がなぜ私を……?
底の知れない不安が私を襲い、身体が少し震えた。
こんな所に私なんかがいてはいけない気がする。
「花音様、どうかされましたか?」
私が黙り込んでしまったせいか、瑠海さんが心配そうに見つめてきた。
「いえ……、何でもありません。ただちょっと疲れてしまったみたいで……」
実際身体的にも精神的にも疲れてしまっていたのは本当だった。。
ここ数日で私は何より大切な家族を失い、家を失い、なぜかこんな見知らぬ所にいるのだから。
「それは大変! お荷物などは後ほど運ばせますから、今は少しお休みになられた方がいいですわ」
瑠璃さんが私の肩にそっと手を乗せてベッドまで連れて行ってくれる。
「あ、ありがとうございます……。でも私、ここで働くのでしょう? でしたらそんな休んでなんて……」
広すぎる部屋も様付けで呼ばれるのも身分違いだ。
「もうしばらくしたら楓様がこちらにいらっしゃいますから、それまでお休みください。それに今まであまり眠れていないのではありませんか?」
瑠海さんの指摘に私は俯いた。
確かにあの事故で目が覚めて以来ほとんど眠れない夜が続いていた。
眠りたくてもあの日の事を思い出して、両親の事を思っては寝付けずにいたのだから。
病院のベッドの上でただ生かされてる自分が嫌だった。
「分かりました。じゃあお言葉に甘えて……」
「何かありましたらいつでも私達を呼んでください」
「……はい」
瑠海さんの言葉に頷くと二人は頭を下げて部屋から出て行った。
私は一体どうなるんだろうか。
働きながらって英さんは言っていたけどそんな話は未だにない。
あの人とまた会ったら本格的にそんな話になるのだろうか。
「……大きくて広いベッド」
クィーンサイズのベッドは私一人が寝るには大きすぎて寂しさが増してしまいそうな気がする。
フカフカのベッドの上に身体を預けて目を閉じる。
この家の使用人として働くなら、もっと別の部屋がありそうなのに。
用意された部屋のあまりの立派さに戸惑いを消せない。
「パパ……、ママ……。会いたい」
ふと口にした言葉は私の瞳にみるみるうちに涙を溜めていった。