パシリ的主張-1
昼休み開始のチャイムとほぼ同時に、オレの机の上に100円玉が並ぶ。
「宮田。オレ、コーラ」
清水はコーラ、と。
「あ、オレも」
浜崎もで２、と。
「ウーロンよろしくね」
小早川のウーロン１。
「オッケー」
小銭をつかみ、教室をでる。３階を駆け降りて、自販機の列に並び、缶ジュース手に駆け上がる。
「ほい」
「おっ、さんきゅー」
こうして、昼休みが始まる。なんてことない。オレは「パシリ」だ。
弁当を食い終わった後は、ベランダにでて一服しつつだらだらと話をする。
「宮田、ライター貸して」
オレは吸わないけど、ライターは持ってる。銘柄もけっこう知ってる。人通りが少ない自販機の場所も。
「やっぱり野島だよな」
「マジかわいすぎ」
「告ってきたりしねーかな」
「ありえねー夢見てんじゃねーよ」
「詩織はオレのだし」
「うわっ！マジありえねーし」
最近はこんな感じで隣のクラスの野島詩織の話ばっかりしてる。
その前は森屋ユミの話ばかりだったけど、浜崎がフラれたのをきっかけに禁句になった。
「宮田はどうよ？野島」
「ん？ああ、かわいいよね。超モテるし」
オレは森屋の方がかわいいと思うけど、もちろん言えるわけない。
そんな感じで適当に合わせてるうちに、昼休みは終わる。
文句言いつつ席に戻ると、やる気なさそうに教師が入ってくる。
午後一の数学なんてだれがやる気になんだよ。
形だけの出席確認がなんとなく開始。
「宮田」
「…はい」
返事をしたあとはひたすら寝て過ごすだけだ。
今日は寝付きが悪く、うつぶせになってうっすら目をあけていた。
オレを「宮田」だと知っている奴の集合をＡとし、オレを「パシリ」だと知ってる奴の集合をＢとする。
ＡかつＢ。…あれ？ＢかつＡだったかな。
…。
とにかく「宮田」と知ってるやつはみんな「パシリ」だと知っている。
さらには「パシリ」だとは知ってるけど「宮田」と知らないやつもいる。
女子からかわいそーと笑われたり、教師から頑張れと肩を叩かれたり。
オレを見る目に「哀れみ」が含まれていることなんて慣れたものだ。
ほっといてくれ。オレにとっては『パシリ＝学校で無難に生きる術』なんだから。
かっこ悪いとか言われても、そんなのオレが一番知ってるし、どーしようもないことも知ってるし。
それよりこの退屈な数学をどうのりきるかだ。…眠れない。やっぱりどーしようもない。
文化祭までいよいよあと１ヶ月ともなると、学校全体が浮かれだす。が、オレはというと。
「コーラ３本、よろしくぅ！」
と、いうわけで今自販機の列にいる。あくまで、いつも通りだ。
３本目を買おうとしたとき、売り切れランプがついた。マジかよぉ。はい、ダッキー決定。
『ダッキー』は、坂の下にある自販機まで買いにいくことを意味する。
戻るときに坂で汗だくになるかららしい。誰が言い出したかは謎だけど、みんなつかっている。
「宮田くーん」
校門をちょっと出たところで、ありえない人物に声をかけられた。野島詩織だ…！
「私もダッキーなんだぁ。一緒にいこ？」
ありえねー！超ラッキーじゃん！速攻うなずくに決まってるっつーの！
「文化祭あと１ヶ月だねー。私的にはぁ『滝中生の主張』楽しみにしてんだけど」
テレビ番組の企画をマネして全校生徒の前でステージから叫ぶというのが今回のメインらしい。
ふ〜ん。やっぱり女子はそういうの好きなんだな。
「やっぱり誰か告ったりするのかなぁ？超ドキドキじゃん？」
今のオレの方がドキドキだっつーの。野島マジかわいすぎだし。
語尾があがる話し方とか、計算かもしれないけど。…かもじゃなくて絶対そうだけど。
ぶりっこと言われようが、かわいいのは事実なんだからしょうがない。
「じゃあね、宮田くん。またダッキーしようね？」
クラスの前で別れるときまで野島はかわいかった。ひらひらと手を振って教室に消えていく。
いつもはイヤなダッキーも、今日は最高だったな。オレ、パシリでよかったかも！
「ダッキーだったくせになんで浮かれてんだよ？」
コーラを渡しながらにやけるオレに清水が不思議がった。
「ダッキーっつーか…ドッキーって感じ？」
「はぁあ！？」
「意味わかんねーけど、なんか寒っ！」
「あ〜あ野島が彼女だったらなぁ」
「キモっ！ドリーマーになっちゃってるよ」
「ドリーマーっつーか無謀？」
ふっ…なんとでも言いやがれ。ついに清水にどつかれるまで、オレの上機嫌は続いた。