エンジェル・ダストE-9
「すいませんでした。蘭さん」
再び李邸に戻った恭一が蘭に頭を下げた。
高速で襲撃された後、警ら隊によって助けられたのは1時間後だった。
通常、体調に問題なければ、彼らが所属する警察署の交通課で事情聴取となるわけだが、そんなことをやっていたら何時間掛かるか分からない。
それでなくても、警察関係との接触は極力避けたいと考えていた。
恭一は仕方なく蘭に連絡を取った。蘭の反応早かった。すぐに警察署の署長と連絡を取ってくれた。
おかげで恭一は、パトカーで李邸の近くまで送られた。
その話をすると、蘭はただ笑って、
「あの署長とも懇意にしてますから」
そう云って部屋を出て行った。
警察と裏社会の癒着。まことしやかに騒がれていることの事実。
あの頃の恭一なら、喉から手が出るほど欲しい情報だが、今となっては何の価値もない。
恭一は居間を後にし、客間に戻った。
「うッ…」
途端に強い汚臭がした。
「おい五島ッ!居るのか?」
コンピューターの置いてある奥の部屋へ入ると、五島が音に気づかずキーボードを叩いていた。
──まったく…ひとつの事に没頭すると周りが見えなくなる。
そんな相棒の姿に、恭一は諦めともつくため息を吐いた。
「オイッ、五島!」
耳元でデカい声を出され、五島はようやく振り返った。
「な、なんだよ…帰ってたのかよ」
「帰ってたのかじゃねえだろ。キッチン、散らかし放題で。
そんなこっちゃ、蘭さんに嫌われるぞ」
五島の頬がわずかに赤らむ。
「分かったよ。うるせえなあ」
コンピューターの設置されたデスクを立ち上がり、流しへと向かった五島は食事の食べカスを片づける。
その有り様を見た恭一は、窓を開けて空気を入れ替えた。
「…まったく…こっちは2日も完徹をしたってのに…」
「それだけの成果は有ったんだろう?」
ブツブツと悪態をつく五島に恭一は訊いた。
「当たり前だ。先日の暗号に通じる情報が手に入ったんだ…」
そう答えた顔は自信に溢れていた。
「見ろ…」
手渡されたのは、東都大学の沿革と、ここ数年の収支報告書だった。