エンジェル・ダストE-7
翌日。
「ありがとう…」
恭一は、〇〇公園南口でタクシーを降りた。時刻は3時2分前。
公園の中へと入り、ベンチに腰掛ける。ベンチから右手にはM城が美しい景観を見せていた。
あと、ふた月もすればこの辺りも満開の桜に彩られるだろう。
そんな安穏とした気持ちでいると、同じ南口からライトブルーのジャケットを着た柴田ふみが現れた。──時刻は3時キッカリ。
柴田は、恭一と視線さえも交わす事無くとなりのベンチに腰掛けると、
「…この中に、私が必死に集めた情報が入ってます」
そう云ってブリーフィング・バッグをベンチに置いた。決して視線を合わさず放った言葉は、彼女の魂の叫びに聞こえた。
「…必ず、役立てます…」
恭一は呟いた。
それを聞いた柴田は、満足気な笑みをひとつ見せて小さく頷いた。
「もう、お会いすることは有りませんから…」
柴田は再び厳しい表情をすると、ベンチを立って公園を後にした。
──人の繋がりとは、何と儚く、強いモノか…。
柴田が残していったブリーフィング・バッグを手に取る恭一。
今さらながら、佐倉と柴田の深い繋がりを感じた。
その頃、李邸の客間。五島は寝食を忘れたかの如く、昨日からの作業を続けていた。
部屋のキッチンには、蘭に頼んでおいたカップ麺や缶詰が山のように並んでる。
そのキッチンの流しには、カップ麺の食べカスが重ねて置かれていた。
「…なかなか…しぶといな」
五島の頭脳は、繰り返し出てくるトラップを潜り抜けて深部へとアプローチする。が、コンピュータもその牙城を守ろうと必死だ。
「…これでどうだッ!」
最後の1手。その瞬間、画面が切り替わった。
「ヨシッ!」
五島は両手を叩いた。すべてのトラップが解除された。
東都大学のホストコンピューターに蓄積された情報は、すべてこちらのモノだ。
彼は、キーボードとマウスを駆使してさらに中へと入った。
──学部名簿…学部運営…この辺は要らんな…
様々な項目ひとつ々を丹念にふるい分けする。
──学部別研究要項、これは必要だな…その次は…その年度別予算か…
必要なモノを取り込む作業中、意外なモノが見つかった。
──大学の沿革だと…?
五島は画面を開き、そこに記されている内容に驚いた。
「参ったな…これじゃ寝れねえじゃねえか」
独り言を呟いた。だが、その顔は喜びに輝いていた。