エンジェル・ダストE-6
「あッ…もうこんな時間…」
そして、恭一に頭を下げてエレベーターに乗り込もうとした。
「柴田さんッ!」
背中に受ける恭一の声。柴田はクルリと正面を向いた。その表情は──何かを必死に耐えている─そんな顔だった。
「松嶋さん…奴らは今でも、私の行動を付け回してるんですよ…」
エレベーターの扉が閉じた。
──オレとしたことが!
奴らは宮内同様、柴田さえも監視下に置いていた。恭一は心の中で地団駄を踏んだ。
夜。M市の市役所から西に15分ほどの場所。温泉地のホテルに宿を取った恭一。
一旦、出直すことも考えたが、李の自宅にある通信機器は盗聴されている可能性がある。
それにここなら、観光客の多い温泉宿という事もあり奴らも手を出し難い。
ただ、万一のことを考えて部屋から出ることは控えていた。
──もっと、彼女のことを配慮して当たるべきだった…。
ベッドの上、タバコを燻らせながら、今さらしても遅い後悔をする恭一。
そんな時、携帯が鳴りだした。
ディスプレイには見慣れない番号が表示されている。通話ボタンを押すと、相手は柴田ふみだった。
「どうしたんです?こんな時刻に」
最初に思ったのは疑問だった。──監視されてる身で大丈夫なのかと。
「昼間は失礼しました。なにしろ、何処で見られているか分かりませんから…」
「だとすると、この電話も盗聴されているのでは?」
「今は大丈夫です。ここはS市ですし、この電話も私のではありません」
さすがに新聞記者だ。電波傍受の防ぎ方を心得ている。
「気をつけて下さい。奴らはいざとなったら、躊躇なく人を殺しますから」
「もちろんです。そのおかげで生き延びてこられましたから…」
柴田の声がトーンダウンした。
「明日の午後3時、〇〇公園の南口にあるベンチに来て下さい。私はライトブルーのジャケットを着てますから」
「分かりました…」
「3時キッカリですよ」
電話は切れた。恭一はしばらく携帯を見つめながら、柴田の心意気に感謝した。
「それにしても…」
──奴らが監視してるとなると、柴田を説得して北新大への取材同行は無理だな。
明日以降の予定を、どのように変更するかを考える。
──最悪、奴らが北新大の枝島や筑波大の椛島まで消したとして、真実を暴くことは出来るだろうか…。