エンジェル・ダストE-5
真田と会ってから2日後。恭一はN県M市を訪れた。
サマーワから帰還した自衛隊々員に医療検診を行った、医師であり北新大学病院教授である枝島省吾と、佐倉と懇意にしていた柴田ふみに会うために。
〇〇自動車道を2時間も北上すると目当てのM市に到着した。
恭一は先ず、柴田の勤める新聞社を訪ねることにした。
「確か…この辺りだったが」
市役所から南に10キロ。空港近くに建つ小さなビル。地方新聞社──N日報─社屋。
恭一は近くにクルマを停めると、社屋の中に入って行った。
薄暗いエントランスには机と電話が置いてあるだけで、受付などなかった。
──御用の方は受話器をおとり下さい─と書かれた代表電話。
大新聞社のように、受付を雇う余裕など無いのだろう。
受話器を取ると、野太い男の声が聞こえた。
恭一は、相手に柴田ふみを呼び出してくれるよう頼んだ。
何も無いエントランスに待つこと10分、未だ柴田は姿を現さない。
──手持ちぶさただな…。
そう思い、タバコを吸おうと社屋の出口に向かって歩きだした時、
「すいませんッ!お待たせしちゃって」
背後から柴田の声がした。
振り返り、笑みを浮かべる恭一。
「こちらこそ。突然、押し掛けて」
「どういったご用件でしょうか?」
その快活な印象は、朝陽新聞で刑事事件を担当していた記者らしく、何事にも物おじしない印象だ。
恭一は単刀直入に訊いた。
「佐倉和樹氏が追っていた東都大学教授殺害の案件、及び、その大学教授が、殺される直前まで行っていたウイルスの特定作業について、あなたが知りうる限りを教えて欲しいのですが…」
柴田の顔色が変わった。
「あ、あなたは…?防衛省から来たのねッ!」
慌てて、エレベーターで逃げようとする柴田を恭一は止めた。
「待って下さい柴田さん。勘違いなさらないで下さい。私は、佐倉氏の元相棒だった宮内氏から依頼を受けて此処に来たんです」
そう云うと、内ポケットから名刺を取って柴田に渡した。
「アイ・オフィス…探偵?」
名刺と恭一を交互に見つめる柴田は、今だ半信半疑という顔だ。
「突然やって来たヤツの云うことなど、信用出来ないのは分かります。
しかし、佐倉氏の無念を晴らしたい思いは本当です。そのためには、あなたの持つ情報が必要なのですから」
恭一は、真剣な顔で柴田の目を見据えた。その目は、──深い悲しみを湛えた─そんな目だった。
柴田は、恭一から視線を逸すと腕時計を見た。